作業曲:Bastille /Remind Me
translucent
(半透明)



疑惑の余地



「流石にまだ泳げるほどの水温じゃなかったよね」
「だーから言ったろ」
「なに? 止めた風に言っちゃって。マイクも飛び込んでたじゃん」
「チゲーよ! 俺はちゃんと助けたろ?! 大体ユメが泳ぎてぇって言っちまったから皆スイッチ入っちまったんだろォ」
「まさか引きずり込まれるとは」
「読みが甘ェよ」
「着替えが無かったらどうするつもりだったんだろ」
「泊まりのフェスなんだからあるって踏んでたんだろな」
「……私を海にいれたアイツさぁ、私の事絶対好きよね」
「フーン。気が付いてんじゃねぇか」
「だって下心ミエミエじゃん。まだ海の家も開いてないんだよ? シャワーも無いし。私だけ連れ出して俺の部屋で着替えれば?  なんて言う?」
「ハ? んな事言われて? ハァンだからかよ納得したぜェ……にしてもラブホ行こうマイク〜なんて叫ぶからアイツすんげぇ顔してたぞ。流石にシャワー目当てって解ってっけどアイツは信じるか解ンねぇな」
「どうでもいいよもう。もう関わらないから」
「はーいご愁傷サーン」
「ねえ、本当にシャワー先に入っていいの?」
「寒ィんだろ? 歯ガチガチ言わせて言うコト?」
「マイクだって寒いじゃん。濡れたままどこで待つの?」
「鍛えてっからそうでもねぇよ。大体海辺のラブホなんて濡れてもいいようになってンの。業者じゃねェんだからんな事気にすんなって」
「ごめんねありがとう。甘えまーす!」
「後で一杯奢れよ」
「喜んでぇ」

 細かい事を気にかけなくてもよく、繊細な配慮も要らず。そんな、女同士では得られないはしゃぎ合いに色恋を持ち込まれるとガッカリしてしまう。折角楽しかったのにまた終わってしまう。こうなるとさようならしか残らない。


 男と女に友情は成立するのか問題の答えを、私は「成立する」寄りでずっと探している。今の所、それを叶えてくれるのはマイクだけしか存在しないけれど。

 欲を見せ合うための磨りガラスを通しても、マイクがこちらに顔向けて凝視しているような肌色は見えなかった。扉を開ける素振りも無いし、怪しく部屋をうろついたり、妙なビデオを付けることも無かった。滅茶苦茶なプレイに備えているものだから海と砂くらい可愛いもんだろと笑って、ベッドに申し訳程度のシャツを広げて寝転がったのを最後に、目に腕を被せて、そのまま。



「……ねえ、シャンプーとかトリートメントもしていい?」
「ア? ソレ俺の許可いんの?」
「砂落とすだけなら急いだ方がいいかなって」
「バーカ。風呂は風呂だろ」



何も気にしていない軽口に甘えてポンプを押す。
まるで色めき落とすような香りで浴室は充満して、
私達はお前に勝っているのよと誇らしい気持ちになる。

 優越感のトリートメントを重ね付け、ソープは念入りに。
 冷たい身体を温めてくれるシャワーヘッドを見上げ、耳たぶに付いた砂から首を撫でる。脇の下から背中、横腹、へそ、お尻から太もも、膝の裏から爪先。泡は感触良くスルスルと、期待外れの不快を拭い去っていった。








疑惑の余地


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