作業曲:FLO RIDA /What A Night
enchantment
×present
(魔法×贈り物)


VOICE SONIC



 今頃駅前も空港も混雑しているだろうか。長期開催ではしゃぎ続けていた観客の姿を思い出して、毎年このスタッフ打ち上げ前には「帰るまでが遠足だぞ」と全員が無事それぞれの暮らしへ戻る事を祈っている。


「そろそろ乾杯したいと思います! 紙吹雪持って帰るスタッフは今のうちに拾って下さいね」


 客を迎えてしまえば舞台に上がれる者は限られているが、閉幕すれば解体前には関係者が集まり座りたい場所へ陣取る。舞台袖にはクーラーボックスのカートが運び込まれ、缶が次々隣の人間へと回された。


「今年も無事開催お疲れ様でした! 乾杯!」
「カンパーイ!」
「あぁ〜今年も終わった終わった」
「祭りの後のこの空気堪んないっすよね」
「セットがどれも可愛くて可愛くて」
「崩したくないですよねー!」
「最後にもう一回撮ってこようかな」


 今はまだ俺たちを照らす照明もセットも宴の後には「お疲れ様また来年な」と愛でられ、惜しまれながら海沿いの倉庫へしまわれていく。
 現地を体感した来場者の思いと舞台を共に作り上げた仲間達あってこそ完全なステージはできあがる。だから、神聖なステージが役目を終え、造り上げたスタッフの元へ帰るこの僅かな時間もまだまだ終わらない祭典の大切な要素になっている。

 
「飲め! 飲め!」
「こらこらできあがんの早すぎんぞ!」
「ノープロブレム! 打ち上げだゼ? 無礼講でいこうぜ」
「飲め!」
「飲む飲むゥ! ヘェェェイ。カンパーイ!」
「しっかし相変わらず自由な現場っすよ」
「それがVOICE SONICの売りなんでェ!」
「来年も来れたらいいなぁ」
「んなしょっぺーこと言わねぇでまた一緒に作ってくれよ。待ってんゼ」
「終わるの寂しいね」
「来年も絶対参加します」
「そうそう! 毎年あんだからまた会おうぜ!」
「記念撮影やりまーす! 中央へー!」


 缶を持ったまま何度も写真を撮る。スタッフTシャツのロゴを見せ付けるように皆で背を向け一枚、ステージ周りに座って一枚、缶を置いてジャンプして一枚。運ばれてきた真四角のバースデーケーキを一口頬張り、そう言えば願い事だよなと残りを紙皿に乗せて、フォークでつつきながらステージ横に立つ短冊をじっくりと眺めた。




「ぼいそにが楽しい!であふれますように!!開催おめでとうございます!」



金が降ってこいとか、
そんな風を想像していて一瞬面食らう。

願い事じゃねぇな。いや……これも願いか。
開催を祝ってくれるばかりか、イベントが楽しさで溢れるようにという願いはその一枚ではなく、他に何枚も書かれていた。


「ぼいそに開催おめでとうございます!3日間皆さんと楽しくパヤパヤできますように!」
「ぼいそに2024もたくさんの楽しいと感動で溢れますように!マイクおめでとう!どんどんおじさんになっていいよ!」


 告知に選ばれたキャッチコピーの “パヤパヤ” は、ジャズ・スキャットに由来する。特に意味のない繰り返し言葉をメロディに合わせてアドリブするこの技法は、声をまるで楽器のように使い歌を彩る。

一人一人の声がそれぞれの熱狂を作るんだ。
きっとパヤパヤ届けられたよな。
そう祈るぜリスナー。
……どんどんオッサンになんのは複雑だナ。




熱狂を巻き戻す言葉と、カラフルさ。
更に短冊の殆どには、
自身の誕生日を祝う文字が幾つも並んでいた。



「ぼいそに開催おめでとうございます!たくさん楽しませていただきます!マイクハッピーバースデー。マイクの未来に幸あれ!皆の願いが叶いますように」

センキュ、必ず叶うぜ。……リスナーの分もな。
しっかり願っといてくれよ。


「ぼいそに開催おめでとうございます!素敵なイベントを本当にありがとうございます!まいく誕生日おめでとうー!!!!」

センキューセンキュー! 
リスナー達があってこそなんだぜ?
来年もまた会おうな。


「ぼいそに2023開催おめでとうございます〜!そしてマイク誕生日おめでとう〜!!会場がとてもハッピーな仕上がりで圧倒されて隅々までうろうろみて回っちゃいました!一般参加で沢山楽しませてもらおうと思います!」

ありがとな。
かーっ。コレ見たらスタッフみんな喜ぶぜェ? 俺もスタッフもとんでもなくハッピーだ。きっとリスナーのハッピーが移っちまったんだな。


「開催おめでとう御座います。マイクのことをこんな風にイベントに参加して盛り上げながらお祝いできてハッピーです。お祭り騒ぎだ〜」

フゥゥ! バカは見るよりやった方が楽しいってもんだ。
俺も祝ってもらえて幸せだ、
お祭り騒ぎが恋しくなったらまた来てくれな。


「開催おめでとうございます!!会場歩くだけでも楽しくて楽しくて…
マイク先生お誕生日おめでたい。生まれてきてくれてありがとう!」

実はよ、俺もスタッフも時間作っちゃあアッチコッチ回って歩いてたんだぜ? 同じ気持ちで会場歩いてたなんて嬉しくねぇ?
派手に祝ってくれてサンキューな。出会いに乾杯だ。


「マイク尽くしで幸せです♡ぼいそに3daysも今日が最終日!最後まで楽しみませていただきまーっす」

おっと嬉しいねェ……来年はもっと俺グッズ増やしちまう? 
終わってからも思い出してくれよ。
そうすりゃずっとエンドレスだ。


「祝!ぼいそに開催おめでとうございます!会場がとても可愛くて癒されまくりです」

スタッフ全員共感で頷いてるぜェ!
気に入って貰えて何より嬉しい。ありがとうな。
また会おうぜ。


「最高でした!」

あぁ俺もサイコーだった。リスナーの応援もな。


「来年もぼいそにに参加できますように」

フー!! きっと来てくれよ!
台風は来ねぇように晴れ男・晴れ女スタッフでも集めるか。
あとは気持ち一つだ。俺は待ってるぜ。


「山田ひざし幸せになって」

おっとさてはガチ勢だな? 
心配すんなって。
俺は今おかげサマSummerで世界一のハッピーメンだ。


「夢の中で元気で幸せそうな推し達にたーくさん会えますように!」

会場は広いし砂浜も陽射しもキツかったろ?
今日はゆっくり休んでくれよな。皆はともかく、俺は後でハイタッチしに行くんでしっかり寝ててくれ。


「幸せなお嫁さんになりたい」

なれるなれる! 
なれるに決まってんだろォ!
七夕生まれの俺がこの声で全部持っていくっつーの!


「あと、お腹いっぱい焼肉が食べたいです」

コイツ二枚目追加してんな。
好きなだけ食え食え。



「ちょっといいか?」
「ハイ! なんすかマイクさん」
「この笹貰っていいよな」
「勿論ですよ! 嬉しいっすよね」
「しばらく部屋に飾るわ」
「8月になっても部屋にあったら笑われそうっすね」
「問題ねぇYO! 夏の間は大体誕生日なんでェ!」
「めちゃくちゃ長ぇっすね」
「捨てられる前に一旦控え室に連れてくか」
「え? もう上がってもらって大丈夫っすよ、あとはスタッフの仕事なんで」


写真撮影は中々終わらず、
押しに押して撤収時間が厳しくなるのもまた風物詩。

缶を集めて紙皿を回収し、散らばっていた紙吹雪は掃除機で吸われていく。しかし去年のお客様の声が嬉しかったらしく、今年仕込まれた紙吹雪はとんでもない量だった。
掃除機は唸りながら止まってしまい、電源を切らずにチェックしたせいでまた派手にメタリックが舞い上がる。少しの悲鳴とたくさんの笑い声に包まれて、メインステージは魅了してやまない魔法の如くいつまでも輝いている。



「勝手に居るならいいだろ?」
「マイクさん本人が言うなら誰も止めませんよ」
「キマリィ!」



控え室に笹と脱いだジャケットを起き、再びステージ前へ戻る。客席が無くなって広まった景色から一身に潮風を受けて、汗をかいたシャツと肌の間をバタバタと揺らす。



「機材はけました!」
「今から照明班、灯体下ろします!」
「客席終わりました! ラスト通ります!」


ついにステージ前のアリーナ柵も解体される。

どれだけ風を受けても、胸がいつまでも熱い。
宴もたけなわ大団円、
でも夏ならこれからも続いていく。

去年も今年も来年も、
記憶の中に、その瞬間に、未来の願いに。

俺たちのステージはきっと、
まだまだ終わらない。









VOICE SONIC


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