09

「あなたはどう?自分の一番大切な物をあたしに差し出して、異世界に行く方法を手に入れる?」
「はい!」
「あたしができるのは異世界に行く手助けだけ。その子の記憶のカケラを探すのは自分の力でやらなきゃならないのよ」
「・・・はい」
「いい覚悟だわ」

そう言って優しく笑ったかと思うと、その笑みはすぐに消え、真剣な表情へと変わった。

そして告げるは、残酷な対価。
残酷であろうとも愛する者を救うためには払わなければならない対価。

「あなたの対価は、関係性」

少年にとって一番大切なもの、少女との関係性という対価。
それは決して目に見える者でなくても、確かに在る、強固で大切なもの。
そしてそれを対価にするということは、少女の記憶がすべて戻っても、少年と少女もう同じ関係には戻れない、ということだった。一瞬一瞬を惜しむように大切に積み上げていった愛する少女との時間は少年の中に存在していても、少女の中には存在しえないものとなるのだった。

「その子の記憶をすべて取り戻したとしても、その子の中に、あなたに関する過去の記憶だけは決して戻らない。それがあなたの対価。・・・それでも?」

それでも少年は、答えた。

「はい。行きます。さくらは絶対死なせない!」

愛すべき少女を救うためには何事も厭わない、と。


そして、少年は誓った。
何処にあるのか、何時、すべて集まるのか分からない、記憶のカケラを探す旅を始めるのだと。



そんな少年を見て、まるであの時の『彼女』のようだと次元の魔女が微笑んだのは誰も知らない――――。







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