03


見回す限り、見慣れぬ壁、見慣れぬ床、見慣れぬ天井。
そして窓の向こう側に広がるのも当然、見慣れぬ街。

だからといって私にとって見慣れたものはどんなものだったのかと問われれば、何も答えられない。

さまざまな看板や管がひしめき合うように高い建物たちの壁に張り付いたり、そこを走っている。物質は無機質なものでしかない筈なのに、息をするように活気づいているような感じがする。
もう夜だというのに街灯は未だ煌々と光り輝き人々の声が聞こえてくる。

「一番最初の世界がココやなんて幸せ以外の何もんでもないで」

この世界に住む有珠川空汰さんはこの街を指さしてそう言っていた。

どうやらモコナは異世界を渡る力を持っていて、その力で私たちはここに来たらしい。とはいえ、意図してここに来たわけではなく、行く世界を選ぶことは出来ないらしい。

そんな私たちを家に泊めてくれているのが有珠川空汰さんとその奥さん、嵐さん。

2人は丁寧に、異世界から来たという私たちにこの場所のことを教えてくれた。ここは阪神共和国というとってもステキな島国であること。
そして、例え異世界の者だとしてもこの世界に来た人には必ず巧断というものが憑くということ。百聞は一見にしかず、ということで巧断がどんなものかは詳しくは教えてはくれなかった。とはいえ、その巧断というのはこれから先、サクラの記憶の羽根を巡って争いに巻き込まれたとしてもその手立てになりうるものだということは教えてくれた。

一通りの説明が終わった後、私はお風呂というものに案内されたりご飯を食べたりした。私は質問をするタイミングを完全に失ってしまった。

「はぁ・・・」

就寝のため、宛がわれた部屋で布団をかぶっていた。明日も会うようだったので、聞くのは明日でいいかと思ったが、気になって眠れずにいた。眠れない、と上半身を起こしては再び横になる。それの繰り返しばかりしていた。「おやすみ」と言ってからどれだけの時間がたったのだろうか。

別に彼らと一緒にいたくないわけじゃない。寧ろ楽しそうだと思う。

けれど、ただ単純に私は知りたい。
私が何者なのか。私は何処から来て、何処へ向かっていくのか。


私は意を決して起き上がった。
そして扉を開け、私の足はファイと黒鋼の部屋へと向かった。


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