04
他の人を起こさないように私はゆっくりと扉を開けた。
そっと二人に近寄って起こそうかと思ったけれど、私が扉を開けた瞬間に二人は目を覚ました。そのせいで逆に私がびっくりした。
私は二人の前に畏まって正座した。起こして申し訳ないと一言謝罪をしてから、気になって眠れないことがあると明かした。
「気になって眠れねぇとかガキかよ」
「うわ!人が真剣に言ってるのにそんなの無いでしょ。さっき謝ったけど黒鋼のは撤回!」
「はぁ?!」なんて言葉が聞こえてきたけど、私は無視してファイの方へ向いた。ファイは相変わらずふにゃんとした笑みを浮かべていた。でもその瞳で私の全てを見抜いているようだった。
「夕方、何か聞こうとしてたことー?」
「うん。私、聞きたいことがあるの」
ファイは私の言葉の続きを待ってくれるようだった。黒鋼はこの会話に加わる雰囲気は見せないものの、腕を組んでこちらを見ていた。
「私、どうして自分がここにいるのか、どうしてファイたちといるのか分からない。というか、自分の名前と自分が王直属の神祇官だってことしか分からない。それ以外何も思い出せない」
ファイと黒鋼は私の言葉に一瞬、驚くような表情を見せた。けれどそれもすぐに消え、質問が来た。
「それ以外何も?」
ファイの確認の言葉に私は深く頷いた。
「そっか」
ファイは一度視線を落とした後、私を見て微笑んだ。それはさっきのような力を抜いたような笑みではなかった。青い瞳に私が映る。
「君は次元の魔女に願いを叶えてもらうために対価を払ってここに来たんだ」
次元の魔女、願い、対価。私にはどれも聞きなじみのないことばばかりで混乱した。そんな私を見てファイはくすっと笑った。
「大丈夫だよ、きちんと説明するから」
少し馬鹿にされているのかと思ってしまったが、これから説明してもらうので黙っていた。
「次元の魔女は、それ相応の対価を払うと願いをかなえてくれる人。モコナは、その人から貰ったんだ」
「私は何を願って、何を対価に払ったの?」
「・・・・」
「てめぇの願いも忘れたのか」
「忘れた?うーん、そうなのかな。本当に分からない」
「●●ちゃん、君の願いは、あの人の所へ連れて行ってほしい」
「あの人?」
「そう言ってたよ、●●ちゃん」
「ファイはあの人が誰か知ってるの?」
「うーん、それはオレには分からないんだー。君とオレは次元の魔女さんの所で会ったばっかりなんだ」
「それって、黒鋼かもそうってこと?」
「うんー」
「じゃあ私達、初対面でここにいるの?」
「そゆことー」
「そっか。それで、私が払った対価って?」
「自分に最も近い存在だった人に関する●●ちゃんの記憶。おそらくそれで色んな記憶がないんじゃないかなー?」
願いを叶えるために払った対価で願いを忘れるのは本末転倒のような気もする。けれど、もしかしたら願いを忘れても旅をしていれば叶うってことなのかもしれない。
それよりも、それだけの対価を払ってまで行きたいあの人って誰なのかとても気になる。けれど恐らくそれはファイたちも知らないことなんだろう。何せ私たちはまだ初対面なんだから。
「ファイたちも次元の魔女に願いを叶えてもらうために対価を払ったの?」
「そうだよ」
「そうなんだ。それは理解できたけど、なんで一緒にいるの?」
「目的は違うけど手段は一緒、なんだって。だからオレたちはそれぞれの対価を出して、次元の魔女さんにOKしてもらったんだー」
ファイの言葉で多くの疑問が片付いた。他にも色々と思うところはあるけれど、これは自分の問題だ。おそらくこれから私は自分で願ったことを叶えるために彼らと一緒に過ごすから、自分だけの問題ではない。けれどそれでもやっぱり、私の解決すべき問題だ。
とりあえずは自分の状況が鮮明になって私はすっきりしていた。
「ありがとう。こんな夜に起こして勝手なこと聞いちゃってごめんね」
「大丈夫だよー」
そう言って笑うファイの表情は通常運転だった。黒鋼の不愛想なところも。
「おやすみなさい」
案の定、黒鋼は返してくれなかったけど、ファイの「おやすみー」を聞いた後、私は自分の部屋へ帰った。
自分でも信じられないけど、さっきまであんなに眠れなかったのに、布団に入るとすぐに睡魔が襲ってきた。