05
大きい建物や小さな建物が何の統一性も見せずに立ち並び、広い筈の空を切り取るように伸びていた。その建物の中にはたくさんの店などが肩幅を小さくして営業し、人を飲み込む。それでも人はたくさんいるようで、橋の上、道、いたるところに溢れるように居た。
そんな流れる人の中からはずれ、橋の欄干を背に●●一行は、皆ひとつずつリンゴを持って立っていた。この世界の服に身を包んではいても、少し周りから浮いているように感じられてしまうのは気のせいなのだろうか、それとも本当に浮いているのだろうか分からないが、少なからず、通る人の目を奪うようで、視線が向けられてはずらされる。けれど彼らはそれに気付いてはいるのだろうが、さして気にする様子も無い。
「そういえば、まだ聞いてなかったね。小狼君はどうやって次元の魔女のところに来たのかなー?」
「おれがいた国の神官様に送って頂いたんです」
「すごいねー、 その神官さん。一人でも大変なのに二人も異世界へ同時に送るなんて」
ファイの口調は、人を馬鹿にしているようには聞こえなくとも、本当に敬いの心があるのかどうか疑ってしまうほどに飄々としていてわかりにくい。つまり、感情の読みづらい口調なのだ。きっとそれは本人にも当てはまることなのだろうが、今の●●にはそれは分からなかった。
「黒りんはー?」
「うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理」
「黒鋼ってどんな悪事をはたらいたの?」
「なんで悪事働いた前提なんだよ!」
「直感的に〜?」
悪戯を仕掛ける子供のように笑った●●に黒鋼は「何が直感だ!」と応酬した。
「●●ちゃんはー?」
「ん?」
「●●ちゃんはどうやって次元の魔女のところに来たのかなーって」
「あぁ、えっと・・・」
黒鋼をからかった面白かった●●は何の話をしていたかすっかり頭の中から消えてしまっていた。ファイに質問に振られて一瞬何のこと分からなかった。
「私は、自分でじゃなくて誰かに送られて来たんじゃない?だって、私にはそんな魔法みたいなこと出来ないみたいだし・・・。ファイは?」
「オレは自分であそこに行ったんだよー」
「なら、ファイは次元の魔女って人に頼らなくても、自分で出来たんじゃないの?」
「無理だよー。オレの魔力総動員しても、一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
「へぇ、そうなんだ」
興味津々な声色で「ふぅん」と頷いた●●の表情は、まるで、新しいものを目にした子供のようだ。そんな●●を見て、ほほえましそうに笑むのはファイで、呆れた様な表情を見せるは黒鋼だ。
「小狼を送ったひとも、黒ちんを送ったひとも、そして・・・●●ちゃんを送ったひとも、凄い魔力の持ち主だよ」
ファイはそのまま、声色と共に視線を手の中にある己のリンゴに落とす。
それにつれられるように●●はゆっくりとファイの手の中に納まる真っ赤な果実に視線を下ろした。
その赤は煌々と燃えることはなく、ただ、ゆっくりと、血にも似たその赤に、その身を浸すだけで何も応えなどしない。
黙って、黙って、己の身を赤で貫き通すことしかしないのだ。
たとえ、その他の選択肢を目の前に並べられたとしてもそれを手に取ることなど決してないのだろう。
それでも●●はその赤に触れたいと思ってしまった。
どうか、どうかその赤を揺らしたい、と。