07

「・・・おれの中に・・・・入った?」

当の本人も訳が分からず混乱しており、小狼は自分の胸元を凝視していた。

「すごかったねー。さっきのは小狼君が出したのかなー?」
「今のも巧断か?」
「よく分からないんです。でも、急に熱くなって・・・」

不可解な状況を理解するために頭の中で先ほどの出来事を思い出していく。すると大事なことに気が付いた小狼は後ろを振り返った。

「怪我ないですか!?」

上下を黒い服で身を包んだ、小狼と同い年ぐらいに見える少年は目に涙を浮かべながら小狼の言葉にコクコクと頷いた。その少年に寄り添うように隣にいた少年は着ている服は全く違えど、その他の容姿はまるで双子のごとく瓜二つだった。

「君もだいじょう・・・」

小狼がそう言いかけたときだった。その少年は音もなく、そして跡形もなく消えたのだ。

「で、え、な、んで」

どこからどう見ても人にしか見えなった少年が一瞬にして目の前から消えたことに頭が追いつかず、●●は言葉を忘れたような声しか出せなかった。そんな●●の隣でファイは「あー、あの子も巧断なんだー」ともうすでに納得出来ていた。黒鋼も「なんでもアリなんだな」と、驚きの感情などとうの昔に処理し終えたとでも言わんばかりに平然としていた。
いや、そもそも自分以外それほど驚いていなかったかもしれないと●●は思い出せる限りの2人の表情を思い返してみた。確かに、浅黄笙吾という男が巧断を出した時も2人が冷静だったこと思いだした。

「巧断もそうだけど、2人の肝の据わりようにも私は驚いてるよ・・・」

これからこの人たちと旅をするそうだが、この先起こることに一人で慌てふためく場面がそう少なくなさそうだなと思うと、無意識にため息が出た。そんな自分の心中を察されたのか、ファイがにこにこと笑みを浮かべてこちらを見てきた。

「楽しいけどね、●●ちゃんの反応」

その言葉に、この人は絶対敵に回してはいけないと●●は心に誓った。

「あれ?モコナはどこ?」
「そういえば、うちの巧断みたいなのはどこ行ったのかなぁ」
「あー。大方、その辺で踏みつぶされてんじゃねぇのか?」

黒鋼だけはモコナを探そうとするそぶりも見せなかった。とくに興味がないといった風だった。

「うっわ、黒鋼ひどい。迷子になってたらどうするのよ」
「違うみたいだよー」

ファイの指さした方向を視線で辿っていくと、何かを囲んで黄色い声を上げる数人の女の子たちがいた。凝視すると、その中心には照れたように笑うモコナがいた。
彼女達からモコナを返してもらい、「どこにいたの?」と●●が聞くと頬を膨らませて小さな体を揺らした。

「聞―て!聞―て!そう、モコナさっきこんな風になってたのにー!」

普段は糸目の様なモコナの瞳が異様なほどに大きく見開かれる。見慣れないからか、普段とはかけ離れた表情だからか、見開かれたその瞳に●●は思わず体が少し仰け反る。

「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
「さっきはあった。でも、今はもう感じない」
「誰が持ってたか分かったか!?」
「分からなかった」

小狼から期待のまなざしを向けられ、けれどそれに応えられないモコナの表情はみるみる暗くなっていった。それに伴って少し重く静かな空気が漂う。そんな空気を追い払うように●●は音が鳴るようにわざと両手を合わせた。小狼とモコナの視線が●●の顔へと自然と上がる。

「さっきここにいた誰かが持ってるっていう条件だけじゃ特定するのはまだ難しいだろうけど、この世界には探しているものが確かにあって、そして近くの誰かが持っていたって分かったわけでしょ?それだって十分に、一歩前進したって言えいることだと私は思うよ」

●●には何か確信があったわけではない。この“旅”の全体像どころか、自分自身のことを含めほとんどのことについて理解していないと自分でも分かってはいたけど、それでもそう言わずにはいられなかった。小狼にとって喫緊の課題であることに違いはないのだろうが、そう急いていてばかりでは見えることも見えなくなってしまう、●●にはそんな気がした。

「あの、あの!さっきは本当にありがとうございました!僕、斉藤正義といいます。お 、礼を何かさせて下さい!」

小狼が先程助けた少年、斉藤正義は矢継ぎ早にそう言った。

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