08
美味しそうなにおいを放つ円形の食べ物はジューっと活気ある音を立てながら鉄板で焼かれていた。
先程小狼が助けた少年、正義がどうしてもお礼がしたいと言ったため、モコナの一声により、「おいしいお昼ごはんが食べれるところ」を案内してもらった。
店内はたくさんの人でにぎわっており、その誰もが笑みを浮かべて食事をしていた。その雰囲気が食欲と目の前にある未知の食べ物への食欲と興味をそそる。●●は瞳を輝かせながら、それに熱い視線を送っていた。
「これはなに?」
目の前にあるものを明らかに「食べる物」として認識しているのに、まるでこの食べ物の名前を訪ねているように聞こえた●●の質問に正義は少し引っかかりを覚えた。しかし、正義はこの店を選んで連れて来た理由について尋ねられているのだと推測した。
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから!」
「「おこのみやき」っていうんだ。これー」
ファイの言葉と先程自分の中で引っかかった●●の言葉が正義の頭の中でつながる。自分と話がかみ合っていない、というよりも当然共有しているであろう情報を目の前の人達は持っていないということに気が付く。
「お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは・・・・外国から来たんですか?」
どうやって分かりやすくかつ的確にその質問に答えるのか分からなかった●●は助けを求めるようにファイに視線を向けた。
「んー外といえば 、外かなぁ」
正義は首を傾げ、ファイの言葉の意味を理解できないでいたが、●●側も今それ以上の言葉を持ち合わせていなかったため誰もそれ以上に言葉をつづけようとはしなかった。
話題を変えようとした●●の頭の中に先程の出来事が頭によぎる。
「ねぇ、あの人たちはいつもあんな風に暴れるの?」
「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで自分達のくだんの強さを競ってるんです」
「そして強い方がその場所の権利を得る、とか?」
「そうです」
小狼とファイはこの国に暮らす人から得たこの国の事実として消化して「なるほど」と頷いた。しかし●●は“この国の事実”として割り切って受け止めることは出来なかった。小さな違和感が芽生える。
「迷惑でしょう」
思わず低い声が漏れた。●●の声色に正義は焦る。
「あの・・・悪いチームもあるんですけど いいチームもあるんです!自分のナワバリで不良とかが暴れないように見回ってくれたり、悪いことするヤツがいたらやっつけてくれたり」
「自警団みたいなものなんですね」
小狼がほほえましそうな視線を向ける。正義は自分の中の熱を解き放つかのように突然立ち上がった。おとなしそうな見た目と相反する正義の動きに●●は目を丸めた。
「帽子かぶってたほうは悪いヤツらなんです!でも、あのゴーグルかけてたほうは違うんです!他のチームとの戦いの時、ちょっと建物 壊れたりするんで大人の人達は怒るけどそれ以外の悪いことは絶対しないしすごくカッコいいんです!特にあのリーダーの笙吾さんの巧断は特級で 強くて大きくてみんな憧れてて!」
興奮のあまり立ち上がっていたことは正義本人は気が付いていなかったので、我に返ると頬が一瞬で赤く染まった。肩をすくめて席に腰を下ろすと、申し訳なさそうに視線を下におろした。
「す、すみません!」
「憧れの人なんだねぇー」
「は、はい!」
ファイの言葉を肯定する正義のその瞳は憧れの人に向けるそれそのものだった。
正義が肯定的に言葉を発するたびに●●の中の違和感は少しずつ大きくなっていった。ごく一部のことしか知らないということは理解できていても、それでも正義のように、先程の光景を肯定的に受け入れることは出来なかった。とはいえ、ただの通りすがりの無関係な存在である自分が、この国に生きている人の想いを否定するのは思い上がりだと思い●●は口をつぐんだ。
「でも小狼君にも憧れます」
「え?」
「特級の巧断が憑いてるなんてすごいことだから」
「それ、何なんですか?」
「巧断の『等級』です。四級が一番下で 三級 二級 一級と上がっていって、一番上が特級。巧断の等級付けは制度はずっと昔に国によって廃止されてるんですけど、やっぱり今も一般の人も使ってます」
「じゃぁさっきのあの人の巧断と小狼君の巧断ってすごく強いってこと?」
●●は気になって口をはさんだ。
「はい」
●●の中の違和感がまた、大きくなった。
一般市民が、国が廃止しても巧断の力を等級で可視化する事に関心があるということは、巧断のその物理的な力もさることながら、それに伴う社会的な力も大きなものなのだろう。だからこそ、ああいった形で使うことは決して推奨されるべきものではない。強い力を持つ者は、他者よりも深く、より慎重に、その力の使い方について考えを巡らせなければならないからだ。
明確かつ強固に、自分の持つ力について自覚しない者に対する否定的な考えがあることに、自分でも不思議に思った。
とはいえやはり自分は所詮どこまでいってもただの通りすがりの無関係な存在でしかない。あの浅黄笙吾という男が予想外にもこちらの言葉にすぐに謝罪をしたことも含め、全てを見てきたわけではない。そう言い聞かせて●●は机から少し体を離した。
「強い巧断 特に特級の巧断は本当に心が強いひとにしか憑かないんです。巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を自由自在に操れるのは強い証拠だから、憧れます。僕のは・・・一番下の四級だから」
羨望の色よりも落胆の色が声色に影を落とす。
「でも一体いつ小狼君に巧断が憑いたんだろうねぇ」
正義の言葉の後に続くようにしてファイは口を開いて話題を変えた。これが今であったばかりの関係性で出来る精一杯のフォローだろう。
「そういえば、昨日の夜 夢を見たんです」
小狼がファイに促されるように話を始めた時、黒鋼はそんなことなど一切気にも留めず、「おこのみやき」の下にコテを滑り込ませようとした。
「待ったー!!!」
何処からともなく向けられた、聞き覚えのない大きな声が黒鋼の動きを止めた。