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あたりを飲み込みそうな激しい水流の音、一瞬にして全てを灰に変えてしまうような炎の熱、そしてそれらが互いを打ち消し合うようにぶつかり合う衝撃波があたり一帯を大きく揺らす。その度に、木々にとまっていたであろう鳥たちが悲鳴のような鳴き声を上げながら飛び立っていく。
浅黄笙悟の巧断が今までとは比べ物にならないほどの攻撃を繰り出す。それは濁りのない濁流のようで、まるで生き物のように小狼を飲み込もうと意思をもって襲い掛かっているようだった。それは同時に地響きのような音も立て、地面から衝撃が体に響いてくる。あわやバランスを崩しそうになった●●の背にファイが腕を添えて支えてくれた。その腕を頼りに元の態勢に戻ろうとしたとき、強い台風のような嵐があたり一帯をかき乱した。その風にあおられた●●はファイの腕にしがみつくしかなかった。
すさまじい風はその威力とは裏腹にすぐに消えた。
「●●ちゃん、大丈夫―?」
強い風に煽られたせいで髪がぼさぼさになった●●にファイは思わず吹き出してしまった。
「ちょ、笑ってる場合?」
「ごめん、ごめん」
頬を少し膨らませるような怒りの表情をする●●にまた笑いそうになるが、ファイは頑張ってこらえた。
なだめるようにファイは●●の髪を整える。その手つきに何の戸惑いもなく、慣れさえ感じられた。
●●の視界を邪魔していた髪がなくなり明瞭になったものの、目に映る世界はなんだか不自然に薄暗かった。
「な、にこれ・・・」
一瞬あっけにとられたが、目の前に広がる景色を信じられず●●は目をこすった。もちろん、眼前の景色に何の変化もなく、大きな建造物さえ超しそうな巨大化した正義の巧断がそこにはいた。
「これが、正義君の巧断・・・なの?」
「あった!羽根!!この巧断の中!!」
モコナの小さな手は間違いなく今しがた巨大化した正義の巧断を指していた。
「羽根はあの巧断の中にって・・・アレにかよっ!?」
さすがの黒鋼も驚きの声を上げた。けれどファイは違うようだった。
「なるほど、巧断を人捜しに使っても、モコナが反応しないわけだ。巧断は憑いた相手を守る。一番強い力を発揮するのは守るべき相手が危険に陥った時」
ファイの冷静な分析に、自分の中で引っかかっていたモコナの“さっき”という言葉の指す意味に合点がいき、●●は次第に冷静さを取り戻す。
「ああ・・・そっか、前にモコナが波動を感じた時も、正義君が危ない目に遭ってたね」
「今も、崩れる城から彼を守ろうとしている」
ファイの言葉通り、正義の巧断は主を守ろうと崩壊しかけている城から自分の掌の中へとすくい上げた。そして、大きく口を開け、深呼吸をして息を吸うような仕草をした後、光線のようなものが口から発射された。その攻撃により建造物の上部が跡形もなく消え去った。それは主を守るためならここまでする意味はないはずの、まったく無意味な行動だった。
正義の巧断はもう一度大きな口を開け、そして周辺の建造物と光線のような攻撃を放った。正義は焦りをにじませながら何か声を上げていた。けれどどうやら主の声は届いていないらしい。
「どうなってるの?これって暴走してるの?」
「羽根の力が、大き過ぎるんだなぁ。正義君、あの巧断を制御しきれてない」
「サクラの羽根の力ってそんなに強いんだ・・・・。じゃあ、なおさら」
「どうすればいいのか」と言葉にしようとした時、小狼がすっと一歩前へ出る。視線は真っすぐ、正義の巧断、そこにあるというサクラの羽根を見ていた。
「どうする気だ?」
無言の小狼の背に黒鋼が問いかける。
「さくらの羽根を、取り戻します」
その声に何の迷いも戸惑いもなかった。わずがにすがすがしささえ感じる。
小狼のその姿は凛としていて勇ましかったけれどだからこそそこに孕む弱さや儚さを●●は感じた。それは不安となって●●の胸を少し締め付けた。
「あのでかいのと、どう戦うつもりだ。ヘタしたら死ぬぞ」
「死にません」
黒鋼のその言葉に小狼は振り返ってこちらを見た。
「まだやらなきゃいけないことがあるのに、死んだりしません」
気圧されるような小狼の瞳に誰も制止の言葉は選ばなかった。
「んん、ここは黒ぴーがなんとかするから、行っておいで」
「って、俺かよ!!」
ファイと黒鋼のもはや通常運転というべき応酬が始まり、小狼の出す空気が少し緩む。小狼は●●を見つめ、彼女の言葉を待った。想定していなかった小狼の行動に●●は驚きつつも言葉はすんなりと出てきた。
「気を付けてね、小狼」
「はい、行ってきます」
その瞳は年相応の、少年らしさを感じる優しいものだった。こちらに背を向け、小狼は正義の巧断のもとへ飛び込んでいく。
「小狼君は強いねぇ。色んな意味で」
ファイのつぶやきに●●は黙ってうなずいた。