大気圏外ニ今モズット隠シテル

空に届けば良い。
否、空さえも突き破れば良いと言わんばかりに統一のなされていない高いビルがあちこち建ち並び、ごちゃごちゃとした看板が人目の奪い合いをしている。人の声、車の騒音が空気を揺らし、自然を感じさせない。

そんな雑踏の中に、ビジネス用のスーツケースを持った女が足を踏み入れた。
“故郷に帰ってきた”という感慨深い思いは抱かないものの、“懐かしい”という思いを抱きながら、大きく深呼吸する。
彼女の纏う黒のスーツには、細い白いラインが縦に走り、彼女の身体の美しいラインを強く主張させていた。そして同時に、彼女に品を持たせていた。特に目立つような格好はしていないのだが、よく見ると彼女の着ているスーツは少し変である。
それに気付いた人は一瞬視線を止めるもすぐに顔をそらして視界から彼女を消す。
何処が変なのかというと、スカートである。両側にスリットが深く入り、其れはおおよそ腰近くから始まっていた。彼女は普段、スリットに付けられたチャックを半分まで降ろしている。

コツン、コツンと彼女の足下の黒いヒールが、池袋の地に響く。

「・・・平和島 静雄―――」

淀んだ空を仰ぐ彼女の口から、何処か懐かしむような声色で、ある者の名が紡がれる。
池袋にいて其の名を知らないのは非常識。そう言っても過言ではないほどに彼の名は有名だった。


喧嘩を売ってはいけない人。池袋最強にして最凶。


そんなイメージ、二つ名は池袋中を本人よりも速く走り出し、見たことはなくても知ってはいる人をこの池袋に沢山生んだ。
実際、其のイメージも、二つ名も間違ってなどいないし、正解だ。

何故、彼女が彼の名前を口にしたのか。
知る者は、彼女ととある人物のみ。
表向きの理由などは多くの人間が知っている。
そしてその本人は、其の理由を快く思っておらず、拒絶していた。



其れは此処、池袋に来た理由にも同じコトが言える。