絡マル糸と意図ハ音無シ
高校入学前の春休み、彼女は池袋に引っ越してきた。そして、入学したのは、折原臨也、岸谷新羅、そして平和島静雄がいる高校だった。
三年間一度も岸谷新羅と平和島静雄と同じクラスになることも、話すことも、目を合わすこともなかった。だからといって、互いに名前を知っているかどうかも危ういほどに・・・というわけでもない。勿論、平和島静雄の噂は高校の全生徒に広まっていて、彼女が其の名を知っているのに何の疑問もないが、平和島は入学後すぐ、新羅によって臨也という今後、犬猿の仲となる人物に出逢う。それから暫くすると、平和島が彼女の存在を知ることとなった。
理由はこうだ。
臨也は一年の時、彼女と同じクラスになった。得意な完璧の笑みをその整った己の顔に貼り付けて、臨也はクラスの仲間とすぐに、そして自然に仲良くなっていった。それに例外は無く、勿論、彼女も臨也と連絡先を交換したりした。
ただ、それだけだった。
彼女は特別何かへんなことをしていた訳でも、浮く存在でも無かった。臨也と同じくクラスの仲間となじんでいた。しかし、臨也はそんな彼女に目を付ける。
気にくわなかった。
此が彼女に目を付けた理由である。
彼女は自分に本当の笑顔で笑ってこなかった。それは自分も同じ。しかし、其れは臨也にとって初めてだったのだ。仮面の笑顔を向けられるということが。今まで自分が誰かに仮面の笑みを向けることがあっても、自分が誰かに仮面の笑みを向けられるということは無かった。しかも彼女が向けた仮面の笑みは普通の人は分からないほど完璧だった。きっと自分のような人間ではない限り、誰もこの笑みが仮面だとは気付かないだろう。そして臨也は悟る。この女はただ者ではない、と。自分の性上、全ての者を己の手の平で踊る駒にしなければ気が済まないのだ。しかしそれ以上に、自分でも分かるほど尋常に彼女を手に入れたいと思っていた。
これだけで済んだなら、良かった方だろう。