満タサレナイ心ト缶
どうしてか―――――
そんな答えの返ってこないと分かっている其の問いを何度、己に投げかけただろうか。けれど、例え答えが返ってこなくとも其の問いを投げることを止めることはなかった。無意識のうちにその問いは己の心の内に溜まってゆく。問いは鉛のように重く、沈み、消えずに彼女を苦しませていた。
「ただいま・・・」
「おかえり」
ただ独り言で呟いた言葉に男の声が返ってきた。
「・・・ッ!」
彼女の視線の先にはファー付きの黒い服を纏った男が此方を向いて立っていた。
「臨也」
「偶然だね。・・・●●」
「・・・偶然?違うでしょ?」
「・・・」
「もしかして、アナタってそういう趣味あったの?」
態とらしく●●は考えるような素振りを見せると、臨也を横目に捕らえて続けた。
「・・・それとも、此の5年間でそういう趣味を身につけたのかしら」
「そういう趣味って?」
「ストーカー」
「まさか」
悪戯な笑みに悪戯な笑みで返す臨也。
「その趣味は笑って“良いね”とは言えない・・・御免なさいね」
「だから違うって言ってるだろ」
扱いにくい●●に表情を表に出さないようにして、心の中で苦笑する。以前にも増して扱いにくくなった御影に、“もうすぐ並ぶんじゃないのか。あの扱いにくさと先の読みずらさは・・・”と心の中に平和島静雄を浮かべた。
「君は変わらないけど、変わったね」
「どっち?」
「以前にも増して扱いにくくなっちゃって・・・高校三年間で君のこと手中に入れようと思ってたのに出来なくて」
「それで?」
「今回も君を手中に入れるのは難しそうだ」
「良い案があるの」
「何?」
●●は一歩、臨也に歩み寄って今まで自分の左手の中にあったコーヒーの缶を放り投げる。
其れを上手く臨也はキャッチした。
「何これ?」
「良い案っていうのは、私を自分の手中に入れようなんて面白くないことを思わないこと、ね」
それだけ言うと、●●はクルッと180度向きを変え、臨也に背を向けて人混みの中へと消えていった。
臨也の手の中にはコーヒーの空き缶だけがあった。
「・・・扱いにくいねぇ・・・でも」
カランッ
コーヒーの空き缶は力無く、アスファルトの上に放り投げられた。
「そう来なくっちゃ、俺の心が満たされない―――」
次の瞬間、空き缶は己の元の形を忘れ、臨也によってゴミという名を授かった。