「グゾルはもうじき死んでしまうの。それまで私を彼から離さないで。この心臓はあなた達にあげていいから・・!」
人形、ララの口から、人間、グゾルとの出会いの話が紡がれた。
「グゾルはねもうすぐ動かなくなるの・・・。心臓の音がどんどん小さくなってるもの。最後まで一緒に、いさせて。グゾルが死んだら私はもうどうだっていい。この五百年で人形の私を受け入れてくれたのはグゾルだけだった。最後まで人形として動かさせて!」
なんて人間的で美しいんだろうかと、私は思った。自分を愛してくれたたった一人の人間のために自らの命の使い方を自らの意思で選択する美しさ。
「お願い」
「ダメだ」
「「!」」
ララの言葉を一刀両断したのは、眠っていたはずの神田だった。傷の手当てを終えて眠っていたはずの神田は目を覚まし、起き上がっていた。
「その老人が死ぬまで待てだと・・・?俺達はイノセンスを守るためにここに来たんだ!!今すぐ、その人形の心臓を取れ!!」
それはもはやどこにも、慈悲も情もない言葉だった。
「俺達は何の為にここに来た!?」
「神田・・・」
声を出すというのは意外と全身を使っていて、叫べばなおさら体を使う。今の神田にとってそれさえも傷に障る。平気そうにアレンを睨んでいるが、実際息が荒くなっていた。そんな神田を制止しようとしたが、神田は私に一切目もくれず、一向にイノセンスを取り出そうとしないアレンを睨んでいた。
「・・・と、取れません。ごめん、僕は取りたくない」
神田は自分の頭に敷かれていたアレンの団服を包帯の巻かれていない方の右手でつかみ取り、乱暴にアレンに投げつけた。
「その団服はケガ人の枕にするもんじゃねぇんだよ・・・・!!エクソシストが着るものだ!!!」
神田はアクマに割かれた自分の団服を着直すと、武器を持って立ち上がって、アレンの方へ向かう。神田がアレンを殴るのではないかとひやひやしたがアレンの隣を素通りした。
「犠牲があるから救いがあんだよ、新人」
アレンは何を思っているのか私にはわからないが、神田に投げられた自分の、エクソシストが着るものだと言われた団服をぎゅっと握っていた。
「お願い・・・奪わないで・・・」
「やめてくれ・・・」
ララの言葉にもグゾルの言葉にも神田は何も反応しなかった。ただ刃をララの心臓に向けて沈黙を貫いていた。
「じゃあ、僕がなりますよ」
いつの間にか団服を身にまとっていたアレンは、神田と向き合うようにして、ララの前に立っていた。
「僕がこのふたりの「犠牲」になればいいですか?」
アレンの言葉に私は特段驚きはしなかった。アレンの性格を考えれば実にたやすく想像できる。アレンはそうやって自分の目に見える全てを背負おうとする。見逃すことなんて絶対にしないのではなくて、出来ないのだ。
「ただ自分達の望む最期を迎えたがってるだけなんです。それまでこの人形からイノセンスは取りません!僕が・・・アクマを破壊すれば問題ないでしょう!?」
アレンは神田をまっすぐ見据えた。
「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!」
その言葉に神田は目を見開き拳に力が入った。今度は本当にアレンを殴る気だ。そう確信したときには体はすでに動いていた。
「「っ!?」」
さすがは鍛えられた男の拳、とでもいうべきだろうか、顔を殴られただけなのに私の足元はふらついてしまった。
殴って力を使いすぎたのか神田はめまいを伴って地面に膝をついて崩れた。
その後を追うように私は立っていられずに倒れそうになる。それをアレンが抱き留めてくれた。
「●●・・・」
「もう、やめなよ・・・・・」
「とんだ甘さだな、おい・・・。可哀相なら他人の為に自分を切売りするってか・・・?」
じんわりと口の中に鉄の味が広がる。血だ。神田に殴られて口の中が切れたんだろう。この味は何とも気持ち悪い。
「テメェらに大事なものは無いのかよ!!!」
神田の声はその感情で震えていた。私の肩を支えるアレンの手に力が込められる。
「大事なものは・・・昔、失くした。可哀相とか、そんなキレイな理由、あんま持ってないよ。自分がただ、そういうトコ見たくないだけ。それだけだ」
私とは反対側に背けられたアレンの表情は儚げで、悲しそうで、今にも泣きだすんじゃないかとさえ感じた。
「僕は、ちっぽけな人間だから、大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません」
アレンはゆっくりと視線を上げ、神田へと向き直った。
「守れるなら守りたい!」
一瞬だった。
アクマの爪が背後から壁を突き破ってきた。それはララとグゾルを貫き、砂の中へと引きずり込んだ。
「ララ!グゾル!!」
「イノセンスもーらいっ!!!」
アクマはその手にグゾル、ララ、そしてララから抜き取っとたイノセンスを持って砂の中から姿を現した。そして用無しと言わんばかりにララとグゾルをその場に放り捨てた。
「ほぉーーー、これがイノセンスかぁ」
アクマは目の前まで持ち上げて、実に楽しそうに奪ったイノセンスを見た。
注意がイノセンスにそがれている間に倒してしまおうと私はグレイブを手にした。
けれど自分の目の前に立つアレンの様子に疑問を感じ、私は顔を上げた。