私たちは歌声に誘われるようにして地下通路を進んでくと天井の高い講堂のような場所に出た。床は見えず、きめの細かい砂漠の砂で覆われていた。
歌声はもう聴こえなくなっていたが、中心付近に、人形とそれに付き添う人間がいた。
何やら二人で話しているようだった。
「ララ・・・ずっと側にいてくれ。そして、私が死ぬ時、私の手で、お前を壊させてくれ・・・」
「はい、グゾル。私はグゾルのお人形だもの。次は何の歌がいい?」
「私は醜い・・・醜い・・・人間・・・だ」
お話の邪魔をするのも悪いとは思うが、アレンと私は2人の元へと進んでいった。
少しして人形、ララがこちらに気が付き、バッと振り向いた。その視線は私たちを敵視していると伝えていた。事情を説明しようと私はアレンの一歩前に出た。
「すみません。立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど・・・」
「・・・・キミが人形だったんですね」
そうアレンが言うとララの瞳から光が完全に消え、殺気がその瞳に宿る。立ち上がったと思ったら、砂の中に埋まっていた石柱に手を伸ばし、身の丈の何倍もあるそれを軽々と両手で持ち上げた。かわいらしいその見た目からは想像もできないような光景に私は息をのんだ。
「ちょ、これって・・・・」
「たぶん、こっちに・・」
アレンの言葉が言い終わらないうちにララは持ち上げた石柱をこちらに向かって投げてきた。反応するのが遅かったわけではないが、人を抱えているせいでアレンと私はギリギリのところでそれをかわした。
「あ、あの!待って!!話し合いをっ!!」
私の声は耳には届いているはずなのに、おそらくララはそれを受け付ける気はないのだろう。再び石柱を持ち上げ、容赦なく投げてきた。
「聞いてくれそうにないな・・・・●●、2人をお願いします」
「うん」
アレンは抱えていた2人を下ろし、私はその傍らに寄り添って片膝をついた。
アレンは左手の手袋を取るとイノセンスを発動させ、ララから投げられた石柱をその手で軽々と受け止めた。
ララにとって予想外の展開に、動きが一瞬止まる。
その隙をアレンは見逃さない。
「それ!」
持っていた石柱を回転をかけながら放り投げた。するとそれは立っていた石柱たちを次々に崩れさせ、しかし未だ勢いのおさまらないそれはララに向かっていた。アレンはすばやく移動し、それをまたもや左手で止めた。
「もう投げるものはないですよ。何か事情があるなら教えてください」
アレンはララに微笑みを向け、ララからは敵意は感じられなかった。
「可愛いコ相手に戦えませんよ」
「アレンさーん、こんな時に女の子口説かないでくださーい。帰ってからお願いしまーす」
「く、口説いてなんかないですよ!●●!」
少し頬を赤らめてそんなに否定するものだから、私は面白くて笑ってしまった。そんな私を見てアレンはまた更に頬を赤くした。
「とりあえず、手当てしないとね」
「そうですね」
「私が手当てをしているから、そのうちに事情を教えてもらえますか?」
クロス師匠とアレンと旅をしている時、まだ私がイノセンスの適合者でなかった時、自分に何かできることはないかと探しているうちに私は医療の知識を勉強して、傷の応急処置の方法ぐらいまでは会得していた。クロス師匠とアレンの役に立ちたいが一心で必死だった。だから洗濯も料理も勉強して、自分のことなら一通り何でも出来るようになっていた。そこにクロス師匠に付け込まれて色々と雑用を回されたけど、今となっては楽しい思い出の一つだ。
砂のあまりかかっていない平坦な床へ神田とトマを仰向けに寝かせた。しかし、トマは目立った外傷は受けておらず、すぐに自分から起き上がって座った。
神田の頭を上げるために何か必要だなと思ったので、私は今朝渡された服を脱ごうと手に掛けた。
「はい」
自分の後方から団服が差し出された。
「これ、アレンのでしょ?」
「僕のを使ってください」
ここには包帯も布もないからどうせ下に着ていた服を使おうと思っていた、なんて言わずにアレンの団服を受け取った。
「ありがとう」
アレンの団服を丸めて高さを作り、神田の首を持ち上げてその下に置いた。
「私に手当てされたって知ったら神田、あとで嫌な顔するんだろうなー」
「はは、確かに」
「とはいえ、そんなこと言ってられないから問答無用で手当てするけどね」
「僕もちょっと複雑な気持ちですけどね」
「え?」
あまりにもぼそっとした声だったので私にはアレンが何を言ったのか分からなかった。聞き直そうと後ろを振り返るとアレンは困ったように眉を八の字に下げていた。何か変なことでも言ったのだろうか。
気になりはしたものの現状を思い直し、神田の団服へと手を伸ばした。
「っ!?」
「●●?どうしました?」
背中越しでも分かるほどに私は動揺しているんだろう。
「どう、して・・・・」
「神田の傷ですか?」
違う。そうじゃない。
どうして、どうして私と同じ紋が神田の体にもある・・・・?
「ルナ?」
「あ、ごめん。ちょっと想像以上に神田の傷が」
上手く動揺をごまかすことが出来ていただろうか。こんなこと、アレンに気付かれては困る。
神田の傷に驚いたなんて嘘だ。あれだけひどく出血していながらその傷はもう塞がっていた。別にそんなに驚くことじゃない。これが神田でなければ驚くかもしれないけれど。
なぜなら、神田と私の持つ紋には治癒能力を驚異的に増強させる働きがある。そしてそれは主の命を喰らう。
その紋を持っているのは――――――
「とりあえず、事情、教えてもらおう?そう悠長にしてる時間もないし」
「そう、ですね」
アレンは体をララとグゾルへと向け直した。