人形は、ララはずっとグゾルのそばで子守唄を歌い続けていた。心臓を戻したララは再び動き出したものの、それはもう「ララ」ではなく、グゾルに初めて会った人形だった。
湿気をほぼ感じない、かさついた風が頬をなでては過ぎ去っていく。温かくもなく、冷たくもないそれはまるで私たちのことなど気にもしないのだと、そう言っているようだった。世界はそれほど私たちに関心はなく、どうとも思っていないのだと。
アレンは階段の一番上に座ってずっと顔を膝にうずめていた。そんなアレンに私は何を言うでもなく、ただ黙って隣に座っていた。コムイの指示を伝えに来た神田は私たちの数段下に座って背を向けていた。
どうやら私たちはイノセンスを本部に届けるために一度戻り、神田はそのまま次の任務へ行くらしい。
「辛いなら人形を止めてこい。あれはもう、「ララ」じゃないんだろ」
「ふたりの約束なんですよ。人形を壊すのはグゾルさんじゃないとダメなんです」
「甘いな、お前は。俺達は「破壊者」だ。「救済者」じゃないんだぜ」
「・・・・わかってますよ。でも、僕は・・・・・」
歌が、止まった。
グゾルが死んで三日目の夜。人形は止まった。
アレンは一目散にララとグゾルの元へと駆けて行った。そして、人形として、ララとして務めを果たして力尽きたその体を受け止めた。その頬に一筋の涙が流れる。
「神田・・・それでも僕は、誰かを救える破壊者になりたいです」
小さいけれど、強い気持ちのこもったアレンの言葉は私の耳へ届いた。ふらりと私の足はアレンへと向かっていた。
「・・・・」
アレンは顔を俯かせたまま私の方へとは向いてくれなかった。私は少し強引に、けれど優しく頬に手を添えて顔を上げさせた。アレンは目を見開いて少し驚いた表情を見せた後、照れくさそうに私から視線をそらした。
「大丈夫。なれるよ、アレンなら」
アレンの頬に流れる涙を私はそっと拭った。
「ありがとう」
アレンの優しさで出来たその涙が、いつか、アレンをアレン自身の幸せへと導いてくれますように。