「うぇー。検査ってこんなに精神を削がれるものなんですね・・・・」
「どうだった?ボクが●●ちゃんの為に愛を込めて作ったアレは?」
コムイさんは私の返答へ絶大なる期待を寄せているのだろうが、私はその期待に応えるわけにはいかない。
私が睡魔に襲われる原因を突き止めるべく作られたというアレは実は先日暴れまわったコムリンという機械の一部を改造して作ったものだった。私はその件については人に聞いただけで実際は見ていないのだが、それは実にひどい有様だったらしい。そんなコムリンの性能を引き継いだせいだろう、正確なデータは一応取れたらしいが、勝手に私の体を増強しようとしてきた。筒状の狭い密室空間の中で触手のようなものが次々に襲い掛かろうとしてきたので、私はせっかく作ってくれたコムイさんには悪いが内部から壊して脱出させてもらった。
「最、悪、で、す!!」
「そ、そんなぁ〜」
私の返答にコムイさんは泣きながら机に突っ伏してしまった。これを見ている限りではまったくもって年上の、しかも上位の役職についている人には思えない。そんなコムイさんが面白くて私は笑ってしまった。
「まぁ、別にイノセンスで完全に壊したわけじゃないですから、また改良したらいいじゃないですか」
「うぅっ!●●ちゃんは優しいんだねっっ!!」
「あと100回くらい改良に改良を重ねてから実用化お願いしますね」
「●●ちゃんってば・・・・ひどいよぉぉぉ・・・!」
私の言葉で顔を上げたコムイさんだったが、私の言葉で再び泣きながら机に突っ伏してしまった。コムイさんは本当に愉快で面白い人だとつくづく思った。何よりイジリがいがある。
「それで、私の睡魔の原因、分かったりしましたか?」
私の言葉にコムイさんはゆっくりと顔を上げ、手元にあった資料をじっと見た。それを凝視した後、あごに手を当て、首を傾げた。先程まで泣いていた人とは思えない表情をしていた。
「うーん、正直なことを言うと分からないんだよねー」
「特に病気だというわけではないってことですか?」
「体に何らかの異常があるわけでもないようだし。視力も聴力もすっごく良いしね!」
「いや、良いって言っても一般人の中で良い方だってことだけでしょう」
「そうなんだけど。・・・でも」
一瞬、コムイさんが止まる。
「何ですか?」
「人には浅い睡眠と深い睡眠があるんだ。あれだけ眠っていれば人は必ずそのどちらの睡眠もする。けど●●ちゃんの場合は浅い睡眠しかしてないんだよ」
「浅い睡眠?」
「浅い睡眠では人は夢を見る。●●ちゃん、心当たりない?」
「夢、か・・・・」
そういう心当たりなら腐る程ある。別にコムイさんに言うのが嫌な訳じゃない。それをコムイさんに言えば、私の睡魔の原因を突き止めて対処法を模索しようと色々と聞いて来るだろう。そしてそれはきっとコムイさんはその胸の内で留めおくことは出来ない。たとえどんなに人が良いコムイさんであっても、黒の教団という組織の中に身を置く限り、それを発揮できるのは室長の権限が及ぶ範囲内だけだ。私の話を聞けばもっと上位の人間に伝えなければならない。
それは、姉の願いに反する。
「ま、夢なんて起きてすぐじゃないと大抵忘れてしまうからもう覚えてないよね」
運よくコムイさんはそれ以上追及してこないようだった。私はその言葉に否定も肯定もせずただ黙っていた。この人に嘘をつくのは嫌だと私の心がそう言っていたから。
「長時間拘束して申し訳なかったね。ごめん、原因を突き止められなくて」
その表情は先ほどと変わらなかったけれど、コムイさんの声のトーンが少し下がる。そういう感情にさせるつもりはなかったけれど、そうさせたのは紛れもなく私だ。本当に心配してくれているコムイさんにでさえ私は真実を分かっていながら話さない。ごめんなさいと心中で謝罪して私はコムイさんに笑顔を作った。
「いえ、何かの病気じゃないと分かっただけでも一安心です」
隠すことも嘘をつくことと同罪だろうか。いずれバレることだと心のどこかで思っていながら隠すのは愚かだろうか。それでもどうか、どうか今は見逃してほしい。
私は姉に背くことは出来ない。
だから私はありったけの心を込めて、こう言うんだ。
「ありがとうございます」
コムイさんは当然のことだよ、とあっさりとそう言った。謙遜でも何でもなく、ただ事実を言っているまでのことだと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。
「ああ、そういえば言い忘れてたんだけど・・・。まだヘブラスカの「預言」伝えてなかったよね」
「よげん?」
「預かった言葉、の方の預言だよ。ヘブラスカの「預言」はよく当たるんだ〜」
その言葉を知ってはいたけど、いざ使われるとなんと返答を返したらいいか分からなかった。私には信仰する宗教も神もいない。
宗教を否定するわけでも神の存在を否定するわけじゃない。ただ、私にとってそれは重要なことじゃない。生きていくうえで、神がいるかいないかではなく、自分がどうするかが問題なんだと思うからだ。
「で、なんて「預言」なんですか?」
「“光り輝く者”」
「それは・・・」
「君のことだよ、●●ちゃん」