15

「そういえば、アレンのことはモヤシって呼んでいい?」
「は?」
「あ、オレのことはラビでいいから」


アレンはボブッと手に持っていた雪球を割ってしまった。


「だって、ユウがそう呼んでたぜ」
「ユウ?」


ラビの言葉が一つのピースとなり、私の中にあるピースとつながった。そしてそれは一つの答えを導き出した。


YU


「・・・・・っ」


私の中で姉が名前を呼ぶ声がこだまする。とても楽しそうな、決して私に対しては向けられないその声色。悲しいばかりの日々で姉にとってはそれが唯一の楽しい時間だったんだろう。
つながったピースを引き金に、姉の記憶とともに流れ込んでくるその時の姉の感情に私の感情が飲み込まれそうになる。

目の前の作りかけの雪の球の中に私は両手を素手で突っ込んだ。肌を刺すような冷たい痛みが今はとても心地いい。私をここにつなぎとめてくれる。


「あれ?知らねーの?神田の下の名前。神田ユウっつーんだぜ、アイツ」
「そうなんだ、知らなかったや。みんな「神田」って呼ぶから・・・」
「今度、呼んでやれよ。目ン玉、カッて見開くぜ、きっと。まあ、会うのはしばらく先の話になるかもしんねェけどな」
「どういうことですか?」
「んー。オレの予感だけどね。今度の任務はかなり長期のデカイ戦になるんじゃねーかな。●●もそれでコムイに呼ばれたんだろ?」


ふいに話を振られ、一瞬戸惑った。けれど完全に耳に入っていなかったわけではないので私は振り返った。


「うん、ここで長期任務の概要を伝えてくれるって」


私の言葉を聞いた後、ラビは自分の目の前の雪だるまの顔に手を添えた。


「伯爵が動き出したんだ。ノア一族の出現ってそういうことだろ。気ィーしめていかねーと・・・」


イノセンスのある方の手を握りしめ、アレンは顔を俯かせた。何かに苦しむような、迷うような、そんな表情をしていた。


「僕は・・・アクマを破壊するためにエクソシストになったんだ。人間を殺すためになったんじゃない・・・・」


アレンとラビの言葉から推測するに、おそらくノアというのは敵ではあるが、アクマではなく私たちと同じ人間なのだろう。アレンがあんな風に言うのだから、おそらくリナリーと行った任務でそのノアと対面し、アクマでなく人間のノアと戦うのを躊躇ったに違いない。


「・・・・おい?どした?」


アレンはふいっと背を向けてここからどこかへ行こうとした。


「アレン・・・」
「モヤシ」
「アレンです!!」


少しシリアスな雰囲気が流れていたことをラビも分かっているはず。それでも、こういう時もそう簡単に冗談を言ってしまえるラビの精神に私はもはや感心した。


「ちょっと歩いて来るんで先、戻っててください!」
「あちゃあ〜?やっぱ、ガキだ」


すたすたと町の方向へ歩いていってしまうアレンの背中にラビはぼそっと呟いた。

その言葉で、私はラビが茶化して冗談を言ったのではないのだと思った。
アレンにとって人間である自分が敵とはいえ人間であるノアを殺すことは深刻な問題でも、ラビにとってはそうではないのだ。戦争とはそういうものだと、人間と人間の殺し合いだと定義するラビはアレンの感情に流されなかった。揺るがしようのない普遍的な事実を理解したラビにとって、そんなことに感情を揺らすアレンはどうしようもなくガキに見えるだろう。

けれど、アクマの判別がつくアレンにとって、アクマと人間は全く違うものなんだろう。だから判別の付かない私たち以上に、アクマを倒したという認識があり、人間を守っていると認識しているはずだ。


「・・・・アレン、街の方に行った?」
「うん、あっちは街にの大通りに出る道さ」
「左目、ケガしてるのにっ!」


私はすぐさまアレンの後を追った。

どうにかしてアレンの隣に立ちたいと切に願い、それを叶えるために日々努力をしているつもりでも、それはつもりでしかないのだろうか。その日が来ることはないのだろうか。

どうして私はこうやってアレンの背中を追うことしか出来ないのだろう。