最高齢の元帥、ケビン・イエーガーが死亡。教会の十字架に裏向きにつるされ、その背中には「神狩り」と刻まれていた。
せんねんこうは・・・さがしてるぅ♪
だいじなハートさがしてる・・・♪♪
わたしはハズレ・・・つぎはダレ・・・♪♪
息を引き取る間際までそんな歌を歌い続けていた。
109個あるイノセンスの中に、「心臓」とも呼ぶべき核のイノセンスが存在する。それはすべてのイノセンスの力の根源であり、すべてのイノセンスを無に帰す存在。重要な存在でありながら、それ以上の情報の無い「ハート」と呼ばれるイノセンス。
千年伯爵はエクソシストの中で特に力の在る者を「ハート」の可能性が高いと、エクソシスト元帥はその標的となった。それを探す千年伯爵の最初の犠牲者となったのがケビン・イエーガー元帥。
各地のエクソシスト達を集結させ、四つに分け、元帥を護衛する。
私たちはクロス・マリアン元帥の護衛の任務を言い渡された。
コムイさんは駅までの馬車の中で色々と私たちに教えてくれた。
私たちエクソシストに司令を出しているのはコムイさんだったので、元帥と呼ばれる方たちもてっきりそうなのかと思っていたら、元帥達に指令を出しているのはコムイさんではなく、大元帥と呼ばれる方々らしい。
教団に着た時、私は眠っていたのでその姿を見たことがなく、本部にいるわけでもないようだった。会ったと言うアレンでさえその顔は見えなかったと言っていた。
元帥の場合は一度に複数の任務を与えられ、個々の判断で行動しているらしい。他の三人の元帥に関しては月に一度本部に連絡が入り、だいたいの動きはつかめているらしい。けれど師匠は一度も連絡をせずその足取りは不明。
確かに、私は師匠が何らかの連絡をどこかに入れている様子は一度も見たことはなかった。その上、借金暮らしで人に散々迷惑かけながら暮らしていたくせに、経費を教団でおとさないでいた。私は自分が教団に入るまで、経費が教団でおとせるなんて微塵も知らなかったし、知っていたらもっと人様に迷惑かけずに快適な暮らしが出来ていたはずだ。アレンだってギャンブルに手を出すこともなかっただろう。
過去のことをそう悔やんでいたって何の得にもならないのは分かってはいても、ため息が出てしまう。教団が嫌いだと言っていたのは知っているが、あんな暮らし方をしていながら一度も教団で領収書を切らなかったなんてよほど教団が嫌いなんだろう。私だって教団が好きな訳じゃないけれど、それほどまでにしなければいけない理由が師匠にはあったのだろうか。まるで教団に自分の足取りをつかませたくないかのようにも思える。
そんな師匠を追っているなんて、師匠は嫌がるだろうが、任務なので仕方がない。
私はブックマン、ラビ、リナリー、アレンと共に師匠を探すために汽車でドイツを東に進んでいた。全く足取りの分からない師匠を探す手立てはティムだけだった。ティムはその契約主である師匠を感知できる能力があるらしい。
私の対アクマ武器を作ってくれたりと、普通のエクソシストとは少し違うなと思っていたら、師匠は科学者でもあったらしい。あんなビジュアルをしておきながら科学者とは意外すぎて笑いが漏れる。以前から薄々感じてはいたけど、ヘラヘラしてるくせに抜け目のない人だ、と思う。
「あー、まだまだ謎だらけって?」
「どうかしたんですか、ルナ?」
「え、あ、いや・・・師匠ってヘラヘラしてるクズ男なのに科学者だったり、色々掘り下げたらもっと出てきそうだなーって思って」
「師匠のこと考えてたんですね。ぼーっとしてたからてっきり眠いのかと」
「いや、今のところ眠気はないよ。それより」
向かいに座っていたアレンの左手の裾を引っ張って、アレンの左側の耳元に顔を近づけた。突然のことで姿勢を崩しそうになるアレンの肩を支える。
「リナリーと喧嘩でもした?リナリー、怒ってるように見えたけど」
今、汽車は途中停車していた。なのでリナリーは駅のホームに降りて晩ご飯を調達しに行っており、今は席にはいない。
先程から、リナリーがアレンと視線が合う度に顔を背け、その表情はなんだか怒っているように見えた。そんな反応を見せるのはアレンに対してだけで、他はいつもとなんら変わりない様子だった。おそらく、前の任務で二人の間に何かあったのだろう。リナリーに顔を背けられるたびにアレンはバツの悪そうな顔をしていたし、アレン自身に何か思い当たる節があるのだろう。温厚なリナリーとアレンがどんなことがきっかけでそんなことになったのかは私には全く見当はつかなかった。
「よく分かんないけど、悪いなーって思ってるなら仲直りして来たら?ズルズル引きずってると仲直りするタイミング見失うよ?」
「そう、ですよね・・・」
アレンの左手の裾から手を離し、元の姿勢に戻した。するとすぐにアレンは立ち上がって汽車の出入り口へと向かっていった。
「なになに〜?秘密の話?」
「いや、リナリーと何かあったみたいだからきちんと話して来たら?って言っただけ。何ニヤイヤ笑ってんの・・・」
「いんや」
「ちょっと、変なこと考えてない?」
「え、そんな〜、ルナとアレンがデキて」
バコーンと気持ちが良い程の音がラビの頭からした。ブックマンがラビの頭を殴っていた。
「すまないな、ルナ嬢」
「いえ・・・・」
「いってーな!なにすんだこのパンダジジィ!」
「お前がわけの分からんことを言うからだ」
「良いですよ、私、ラビと会って全然時間経ってませんけど、寝てるアレンの顔に落書きしたり、ラビって精神が未発達なんだなってことは分かってるので」
「ちょ!ルナってば辛辣すぎる!!」
わざとニコリと笑いながら言うと、ラビは涙目になった。
貶すつもりでああは言ったものの、年上と感じさせないラビのリアクションを見たり、くだらないことを言っているのを見ているのも私は嫌ではなかった。むしろ楽しかった。別にアレンや師匠といるのが楽しくなかったというわけではない。それはそれで楽しかった。けれど教団に入って色々な人と関わっていく中で、私の目に見える世界は急激に広がっていった。他の人にとっては普通かもしれないが、私にとっては何もかもが新鮮だった。今は戦争中で次々と現れる敵に立ち向かっていかなければならないし、待ち受けるのは大変な未来だということも分かってはいる。けれど、それでもこんな何気ない時間が私にはとても楽しかった。
「でも、私、楽しいから」
「・・・・・」
フォローを入れたつもりだったのに、ラビはなぜか黙ってしまった。それにつられて私もなぜか口を閉じた。
「ルナの笑顔ってほっこりするさ」
「ほっこり?」
別にほっこりの意味が分からないわけではないが、それが自分に適応されていることに理解が出来なくて首を傾げた。
「うーん、どう言えばいいかなー」
「雪の中に灯る明かり」
「そう!それとか、雲の切れ間から差す光、みたいな感じ」
ラビが考えあぐねていると、私の隣に座っていたブックマンが呟いた。それがラビの中にあったほっこりとうまく合致したらしく、ラビは大きな声を上げた。モヤモヤ解決されたからか、ラビの顔がすっきりと明るくなっていた。
「ほう。イメージできるけど、それは褒め言葉として受け取っていいんだよね?」
「え、ルナにはこれが罵声に聞こえるのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど。ただ、ラビってからかうの好きだしその延長かと・・」
「やっぱルナってばひでェ」
「そんなこと言うラビの方がひでェ」
面白くなってひでェの言い方をラビの言い方を真似して言ってみた。そしたら、ラビはまた涙を浮かべたものだから、私はもう笑いが止まらなくなった。