06

アクマによってバラバラにされてしまったティムキャンピーを手にしたトマと合流し、グゾルと少女の道案内で地下通路を歩いていた。
ティムの映し出す映像から神田とトマと三人でアクマについて思考を巡らす。
アレンは映像の中でアクマにその姿を鏡のように写され、しかも装備を写し取ることによってその能力までアクマは自分のものにしていた。


「姿だけならまだしも、能力まで写し取られるのは厄介ね」


私の言葉の後に神田は舌打ちした。これで何度目だろうか。
神田とトマはまだ何か話しているが、歩きながら話しているので私は前を向き直した。前は突き当りになっていて左右に道があった。
そして、道案内をしてくれていた2人の姿が消えていた。


「神田!トマさん!」


こちらに気付いてもらうために二人の名前を呼びながら、私は左右の道を何度も確認した。けれどそのどちらにも二人の姿はなかった。


「に、逃げた?」
「くそ、あいつらどこに・・・っ」
「神田殿、ボイド殿、後ろ・・・」


トマの言葉に従って振り返ってみると、そこにはアレンが立っていた。ゆらゆらと不安定な足取りでこちらに来る。


「・・・・カ・・・・カ・・ンダァ・・・・」


その姿はひどくボロボロで、生気がなかった。そして、本物のアレンと左右が反転していた。
神田はトマの前に出て、刀を構えた。


「どうやらとんだ馬鹿のようだな」


自分に武器を向けられると分かっているはずなのに左右の反転したアレンはこちらに攻撃してくる様子も、ましてやそれを防ごうともしなかった。相手に何か考えがあるのかどうなのか分からず少し疑問が残るものの、念のため私も武器を取り出しておいた。


「カ・・・ン・・・ダ・・ド・・ノ」


気力なく紡がれるその言葉に私の疑問はさらなる確信へと変わった。


「災厄招来!」
「待って!神田っっ!!!」
「界蟲一幻!!!」


前にいたトマを押しのけて神田を止めようとしたものの、間に合わなかった。


「無に還れ!」


神田の攻撃が寸分たがわず左右反転したアレンへと向かう。
私にはどうすることも出来なかった。私が向こう側にいれば神田の攻撃を受け止めて相殺できたかもしれないが、それももはや不可能だ。

もうだめだ、と思った瞬間、見慣れた手が現れ、神田の攻撃を防いだ。


「ア、 アレン!!」


アレンに庇われて気が抜けたのか、体力の限界なのか分からないが、左右反転したアレンはその場に倒れてしまった。アレンはそばに膝をつき、その表情を伺った。


「モヤシ!!」
「神田・・・」
「どういうつもりだテメェ!!なんでアクマを庇いやがった!!」


神田の激しい怒号が壁に反響してあたりに響いた。先程までは一切見せなかった感情の高ぶりを見せる神田に、アレンは冷静に説明を始めた。


「神田、僕にはアクマを見分けられる「目」があるんです。この人はアクマじゃない!」
「アレンが言うなら間違いないね」
「●●?」


私は距離が出来るように神田を押した。アレンは私がこうした意図を図りかねているのだろう、頭の上に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだ。


「おい、テメェ」
「イノセンス、発動!」


私がそう叫ぶとともに、バレたと分かったアクマはトマの皮を破ってその姿を現した。そして私の攻撃から逃れようとした。


「遅い!」
「っ!」


私のグレイブは見事アクマに当たり、壁や地中を抉りながら薄暗い闇の中に消えた。


「やったか?」


神田の言葉に私は手元をぎゅっと握りしめた。


「いや。確かにアクマに当たった感触はあったけどあれじゃまだダメ。上手く避けられて、おそらく、アクマの右腕を切った程度だと思う。とりあえず、ここから移動しよう。トマさんの手当てしないといけないし、アクマにイノセンスを取られるわけにはいかない」


私はアレンに支えられている、左右反対のアレンの姿をしたトマさんの隣に膝をついた。顔の皮膚に僅かに亀裂が走っていた。そこからべりべりとはがしていくと、案の定、トマさんの顔が現れた。特に目立った外傷はなかったものの、意識が不安定だった。


「●●はあれがトマじゃないってこと、気付いてたんですか?」


アレンの言葉に私は首を振った。


「最初から分かってたわけじゃない。左右反対のアレンが、神田のこと、神田殿って呼んだから。そんな風に呼ぶのトマさんしかいないし」
「アクマだってそう呼んでたじゃねーか」
「それはそうだけど、アレンの格好してトマさんの呼び方真似る必要ないでしょ。でも確証は持てなかった。アレンがアクマじゃないって言ってくれたから分かった。この場にトマさんと神田と私がそろった以上、他の人間はいないはずでしょ?まぁ、人形に付き添ってる人間って可能性もあるけど、アクマは所詮、左右逆転した皮しか作れないみたいだし」
「こんな一瞬でそこまで考えが回るなんてすごいですね・・・」
「いや、ほぼ勘みたいなもんだったよ、実は。それより、ここから距離を置こう」


私の言葉にアレンは快く頷いてくれ、神田は舌打ちをしながらも私の言葉に沿ってくれるようだった。というか、そうならなぜ舌打ちなんてするのか、神田という人間は舌打ちをしないと返事が出来ないのか。呆れて私は心の中でため息をついた。
自力で立ち上がれない様子のトマさんに肩を貸そうと手を伸ばした。

その時だった。


「神田!!」


アレンが声を上げて神田の名前を呼んだと思った瞬間、激しい衝撃音と共に私の目の前にいたはずの神田が消え、粉塵が待っていた。
視界の左側から甲高い金属音と共に何かが勢いよく飛び出し、床に突き刺さる。それは神田の対アクマ武器だった。私はそれ抜き取り、名前を叫んだ。


「神田!」


イノセンスの装備型は肌身離さず対アクマ武器を持ってはいるものの、体の一部というわけではないので必ずしも持っている状況を維持できるわけではない。そして、イノセンスと適合したエクソシストといえど、装備型はその武器を手放してしまえば町の中で生きる一般人と何ら変わりない。決してアクマのウイルスに耐えうる肉体も、アクマの攻撃に耐えうる肉体も神から与えられているわけではない。

「っ!?神田っ!」

左から激しい音が聞こえた。とても聞こえ覚えのある音だった。人の肉体を割く、音。すぐに血の匂いが漂ってきた。


「お前ぇぇぇ!!!」


それは、普段の優しいアレンからは想像もつかない程に怒りの混じった声だった。
再び激しい衝撃音が聞こえ、駆けつけるとそこにアクマの姿はなかった。アレンの攻撃をアクマが受けた音だったんだろう。
立ったままそこから動こうとしない神田に駆け寄って口元に耳を寄せる。微かではあるもののきちんと息をしていた。


「神田はっ?!」
「大丈夫だよ、アレン。まだ息はある。けど、アクマに受けた傷の出血をどうにかしないと危ない。どこか手当てが出来るとこに行きたい」
「分かった」