シンカイ

選抜術式試験、二日目。

破滅へのカウントダウンが始まった。

赤い光線が地を割き、大きな爆発音が生徒達の耳を割く。舞い上がる粉塵の中から肉を切り裂く音、赤い血のにおい、悲痛な悲鳴が上がる。突然の出来事に混乱状態になった生徒たちの多くはわけも分からず殺されていく。

慈悲もなく生徒たちを手にかけていくのは黒いスーツを身にまとった者たち。その者たちによって試験会場は一瞬にして死体で埋め尽くされた。
その黒いスーツの者たちは百夜教の者たちだった。

呪術組織としてトップの組織達の、百夜教と帝ノ鬼の戦争が始まったのだ。



そして、粉塵と共に姿を消した人物がいた。




キィと、扉が開けられる音がした。

「何の事前の知らせもなく人の部屋にやってくるなんて常識知らずもいいとこよ」
「許嫁を見舞うためにやってきた婚約者を誰も常識知らずとは言わない」
「えぇ、それが事実であるならば、ね」

木製の椅子に腰かけている●●は自分の手元の本から顔を上げないでいた。そんな●●を気にも留めず暮人はそのまま部屋の中へと入ってくる。●●は次のページへと本をめくる。

「もう少し許嫁とのたわいもない会話を楽しみたいところだが今は生憎そんな時間はない」
「貴方は現実を見るということが出来ないみたいね」
「2週間前、あの日の襲撃と共に柊真昼が姿を消した」
「貴方に教えられなくとも親友のことなんだから知ってるわ」
「おそらく、襲撃を仕掛けてきた敵は百夜教だろう」

暮人は部屋の入り口から数歩進んだところでその足を止め、●●を見据えた。●●はそれに気付きながらも顔を上げようとは決してしなかった。あくまで読書中であるという姿勢を貫いていた。

「真昼は前日ここへ来たそうだな。何をしに来た?何を話した?」
「女子トークが気になるの?それともそれは私たちの女子トークに混ざりたかったととらえて良いかしら?」
「単刀直入に言う。●●、何を知っている。知っていることを全て話せ」
「私、大切な親友が攫われてしまったと聞いて今とてもショックなの。だから残念だけど貴方の話相手になれるほど暇じゃないのよ。それに貴方と話してると体調を崩しそうだわ。お願いだから早く私の視界から消えて」
「随分な態度だな」
「そう?」

ふと口元に笑みを浮かべた後、手元の本をぱたんと閉じた。そしてやっと視線を暮人へと向けた。
けれど向けられた視線は明らかに殺意を含んでいた。

「忘れているようだから一つ言ってあげるけれど、お前より格上なのは真昼だけじゃないのよ?分からないようならその体に刻み付けてやろうか?」
「百夜教と帝ノ鬼は戦争状態に入った。●●にも何らかの命令が下るだろう」

そう言い残して帰っていく暮人の背を●●はじっと見ていた。
その背が消えると視線を再び手元の本に落とし、肩に掛けていたストールをもう一度掛け直した。ぎゅっと爪を立てるようにきつく自分の肩を抱く。




「真昼・・・やっぱり貴女がいないと寂しいわ」



唯一無二の親友と、真昼との離別の道を選んだのは紛れもない私自身。真昼と出会ってから初めて真昼とは違う意思を示した。

けれど、真昼のいない世界はまるで陽の光の届かない、冷たくて深い海の底のようだった。まともに息をすることさえままならなくて、そこにいるだけで体の体温が奪われていく。
誰もが陽の光を求め、酸素を求めて地上を目指してあがく。地上に出るためなら、そのためなら平気で他人を切り捨てる自分本位すぎる世界。この深い海の世界では家族も仲間も友達も存在さえしない。

私には生きるためにその海の中でもがくほどの意思はない。もがけばもがくほど、余計に体温が奪われていくだけだから。

沈むこともなく、もがくこともなく、私はただひたすらに体温を奪われながら海にたゆたう。




細い息の糸を繋ぎながら私は真昼の進む道を見ていよう――――――





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