ミッカイ

「生徒会長様の拷問は楽しかった?」

彼女が人の前に姿を現すときは、決まって唐突だ。

●●の声がしたその一瞬後、グレンの従者である花依小百合と雪見時雨はそれに反応してグレンの半歩前へと出た。
ここでは散々馬鹿にされているけど、だからといって2人が本当に馬鹿なわけでも実力がない訳でもない。だから分かっているはずだ。2人が束になろうが、ここにいる僕やグレンも力を合わせようとも目の前の相手に、●●にかなうはずもないということを。
きっとここにいる誰も、決して彼女の本当の実力を見たことはないだろう。けれど、あの暮人兄さんでさえ、超すことはおろか並ぶことさえできないほどの力を持った天才呪術師柊真昼と並ぶほどの力を持つと言われているだけで、それだけで十分だ。

「お前は人に庇われることが多いわね。それで恥ずかしくないの?」
「こ、これ以上近づかないで下さい」
「グレン様、下がってください」

それでも尚、グレンを守ろうと前へ出るのはグレンの従者であるということ以上に他の感情がそうさせているんだろう。そしてグレンは、他人のことなどまるで興味を持たないはずの柊真昼にでさえその感情を与えた。

「手出しはさせません!」

花依小百合の声は震えてはいなかったものの、足がわずかに震えていた。
それを察したのかグレンは花依小百合の肩をポンとたたくと、従者の間を割って一歩前へ出た。

「お前も俺を拷問しに来たのか?」
「屑の生徒会長とは違って私にはそんな下品な趣味は持ち合わせていないの。頼まれてもお断りよ」
「じゃあ何の用だ」
「少し貴方と話がしたいの。以前に言ったでしょう?2人っきりで」

そう言い終えた後、●●は少し考えるようなそぶりを見せた。そしてまさかの、僕に視線を向けた。

「貴方、随分をグレンと仲が良いのね」

●●は瞳を細めて微笑んだ。

「まぁ、大した用はないけれど確認のため、貴方も来て」
「嫌だと言ったら?人質でも取るか?」
「分かっていないようだから教えてあげるけれど、一度きりよ。よく聞きなさい」

●●は人一人分ほどの距離にまでグレンに詰め寄り、不敵に笑った。すかさず花依小百合と雪見時雨が止めに入ろうとするがグレンがそれを手で制した。

「私は面倒なことが嫌いなの。だから」

傷一つないその綺麗な人差し指で、●●はグレンの首元に横一線を引く。グレンの喉がゴクリと音をあげた。

「もっと単純で直接的で効果的な方法を取るわ」




「もうくだらない話はいらないわ。端的に答えて」
「なんだよ」
「貴方、あの日、試験二日目のとき、百夜教と接触したわね?」

ゾクリと背中に冷たい何かが走った。視線だけを横に向けるとグレンも僕と同じようにその場に硬直していた。動揺が見て取れる。

「どういうこ」

何かを踏みつけるようなガシッという音が聞こえたと思えば、グレンの表情が歪んでいた。その足元を見やると、●●が地面にこすりつけるようにしてグレンの足を踏みつけていた。わずかにだが、●●の足と接触しているグレンの足の部分が焦げているようだった。おそらく軽く呪詛を使ったんだろう。

「嘘はいらないのよ、嘘は。くだらない」

恐ろしい程に冷えた瞳とその殺気は、先日、試験会場で●●が見せたものそのものだった。

「百夜教が襲撃した時、お前の周りは酷い粉塵や煙で囲まれていた。しかもそれは人為的なもの。ここまで言えば話す気になる?」
「・・・・・勧誘された」
「百夜教に?」
「そうだ」
「そう。で、貴方たちは知っていたのね。襲撃犯は百夜教で、真昼が攫われてはいないことを」

鋭い視線がグレンからそのまま横に僕へと刺さる。言葉を発することが出来ず僕は首を縦に振った。

●●はグレンの足元から自分の足をどけ、半歩後ろへと下がった。瞬きした後の●●の瞳は普段のものに変わっていた。するとそのまま何も言わず去ろうとした。

その背中にグレンが質問を投げかける。

「記憶、消さないのか。こうやって俺に接触していることを暮人に知られるのはおまえにとって良いことじゃないはずだ」
「貴方は私があの屑に疑いをかけられることを心配してそんなこと言ってるんでしょうけれど、どうでもいいのよ、そんなこと」

●●はこちらに振り返り、グレンを見据えた。

「忘れられては困るの。貴方が真昼のいる百夜教に勧誘されたこと。もっと言うのなら、親友である私は勧誘を受けず、想い人である貴方だけが勧誘されたということを。忘れないで、決して」

そう言って去っていった●●はいつもと変わらない表情をしていたはずなのに、僕にはなぜがとても悲しそうに見えた。苦しそうに見えた。



自分で言った言葉の一つ一つがまるで自分に刺さっているかのようだった。






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