デアイ

第一渋谷高校は呪術組織「帝ノ鬼」が牛耳る呪術師養成学校。
その中で「柊」の苗字を持つ者はまるで神のように恐れられ、敬われ、ある意味崇高の対象と化していた。そしてその対象となる一人に僕も入っていた。
とはいえ、ただの養子であったから柊家の人間からはなんら価値のない人間も同然と言いたげな視線を向けられていたけど。

天才と呼ばれる柊真昼。その許嫁として柊家に養子に入った。入ったというよりは入れられたという方が正しい。多くのものを失って、多くのものを奪われてここに来た。そうしなければ生きれなかった。生きることを許されなった。
そして、柊真昼の許嫁になった。許嫁という隠れ蓑に。
柊真昼には好きな人がいた。勝ち目の無い程に盲目的に惚れる男がいた。その相手は一瀬グレン。裏切り者「帝ノ月」の宗家一瀬家の次期当主候補だった。
それを知った時の絶望感は言い表せない。
目の前は暗く、頭の中は白く、襲い掛かる絶望に立つことさえままならなかった。


一体誰の仕業か、その一瀬グレンと同じ1年9組に自分の名前が入れられていた。
自分の中にふつふつと湧き上がる黒い感情に理性で蓋をしながらなんとか一日目を過ごした。

これから通うことになる校舎の中を帰り際にぶらついていると、中途半端に閉められた扉があった。上を見てみると保健室と書かれていた。
退屈したらここに来ようか、と新学期そうそうそんなことが頭に浮かんだ。ここの教師はおそらく柊家に何も言えないだろう。ここには誰一人として柊家に逆らえるものなど一人もいない。
認めたくないことではあるけど、僕も確実にその一人だ。

保健室からは何の音もしなかったので微妙に開いた扉から体を横にしてするりと入った。窓が開けっぱなしでカーテンが大きく揺らいでいる。
入って右側には3つのベッドが並べられていた。
しかし、一番奥のベッドだけカーテンで仕切られていた。何を思ったのか自分でも分からないけど、まるで吸い寄せられたように一番奥のベッドに近づいた。
そしてそっとカーテンに手をかけ、覗ける程度に開けた。

「・・・・っ」

息をのんだ。すーっと規則正しい寝息を立てるその人物は、同じ人間とは思えない程美しくまるで彫刻のようだった。
何秒見ていたかなんて、時間の流れなんて分からなかった。
はっと我に返ったころには寝ていたはずの人物が起き上がってじっとこちらを見ていた。そしてこちらが我に返ったのが分かったらしく、笑みを浮かべた。

「あら、入学早々寝込みを襲われそうになるなんて思いもしなかったわ」

純粋で美しい見た目とは裏腹に、その中はそうではないと一瞬で悟った。彼女自身、それを隠そうともしていないらしい。

「そんなことしないよ〜」

彼女がベッドから立ち上がると布団の下から細く陶器のような脚が現れた。そして僕の視線を気にすることもなく乱れた服や髪をなおしていく。

「で、真昼の許嫁が私に何か用?」

絶対王政のごとく全権力を握る柊家の次期当主候補を呼び捨てにした彼女に一瞬驚いた。そんなことが出来るのは、許されるのは柊家の人間だけだ。思い当たるような人間を頭の中に浮かべてみたものの、めぼしい人物は見当たらない。第一、彼女は見たことがなかった。

「用がないなら失礼するわ。もうこの時間だと授業は終わってるだろうし」
「君は・・・・・」
「あら、真昼から何も聞いてないの?」

聞くも何も、許嫁とは名ばかりで何の親しい関係でもない。押し付けられたその名ばかりの関係性だけが僕と真昼をつなぐ唯一の糸だ。それ以外、何も存在しない。

「まぁ、ただの名ばかりの許嫁には話す意味ないものね。仕方がないわ」

自分の体温がカッと上がった。けれど当の本人は悪気があるように言ってない。さも事実を述べたまでだといわんばかりに涼しい顔をしている。
確かに、と自分の心を静めた。彼女の言ったことは変わりようのない事実だった。反論するすべなどどこにもない。

「名ばかりとはいえ、真昼の許嫁だし、同じ被害者として特別に私から私の名前を教えてあげるわ」

“同じ被害者”という言葉が引っかかった。

「私は●●。真昼の唯一無二の親友、そして真昼は私の唯一無二の親友よ。同じクラスらしいから、よろしくね」




第一渋谷高校の、誰もいない保健室。そこが僕と皇羽が初めて会った場所だった。




prev / Index / next

Menu / Entrance