グレン

その日から、その瞬間から僕の脳裏から彼女、●●が消えることはなかった。強く鮮烈に焼き付いて離れない。

「同じクラスらしい」と言っていたものの、次の日教室に行っても皇羽はいなかった。出席簿や座席表を確認すると間違いなく同じクラスだった。
しかも席は僕の隣だった。授業は実につまらなく、ぼーっと隣の席を見ていた。

柊●●。「不義の子」と呼ばれていたものの、その驚異的な才能に柊家が次期党首候補である柊暮人の許嫁として柊家に向かい入れた、天才柊真昼と並ぶ程の力を持つ人間。望まない婚約をさせられ柊家に入れられた者同士として僕を“同じ被害者”と呼んだんだろう。
そのつながりを意識すればするほど、●●の姿が鮮明に脳裏によぎる。

チャイムの機械的な音が午前の授業の終わりを告げる。
すると待ってましたと言わんばかりに生徒たちが昼食の準備に入っていく。食堂に行こうと教室から出ようとする生徒もいた。
どうしようかな、なんて思っていると急に生徒たちがざわめきだした。なんだろうと顔を上げると、生徒たちは皆扉の奥を見ていた。
こっちからの角度ではその奥に誰がいるのかは見えなかったけれど、誰かが小さく「●●様!」とつぶやいたのは聞き逃さなかった。
自然と僕は立ち上がっていた。

「●●様って?」
「知らないの?!」
「え・・・もしかしてあの皇羽様?柊暮人様の許嫁の!?」
「そうよ!」
「あぁ、なんて見目麗しいお姿なの・・・・・」
「はじめてお目にかかるわ」
「一緒のクラスになれるなんて・・・・」

各々が小さな声でそんなことを呟いて、委縮する者もいれば恍惚とした表情を浮かべる者もいた。
そんな人ごみを割くように教室に入ってきた●●は他の誰にも見向きもせず、ある人間の元へと歩み寄った。
その光景にその場にいた生徒たちが驚きを隠せなかった。

「はじめまして、一瀬グレン。お昼、一緒に食べない?」

異様すぎる光景。
柊家の次期当主候補の許嫁が、天才と並ぶ程の実力の柊家の人間が、他の全員がクズだネズミだの嘲笑い同等の人間として扱いもしない奴に話しかけている。
観衆たちは足を止めて2人を見ていた。

「そんな・・・・柊家の・・・」

ごもごもと委縮するように言葉を紡ぐグレン。対する●●は笑ってはいたもののイライラを表に出し、グレンの足を踏みつけた。

「つまらない男を相手にしてる時間はないわ。ったく、真昼もあれだけ美人なのによりによってどうして・・・・ずっと真昼から聞いていてどんな男かと思えば」

はぁとわざとらしくため息をつき、●●は頭を抱えた。すると●●はすっとグレンの隣に回り、机に腰かけ足を組んで体をそっと寄せた。そしてまるで吟味するかのようにじっとグレンを見つめた。男女の近さとして異様に近い距離感に息をのんだ。
グレンは●●の気に押され動けずにいた。

「まぁ、柊家の人間よりは顔も中身もよさそうね」

ぽんっと身軽な動きで机の上から立ち上がり、視線は次に僕へと向かってきた。

「うーん、でも、見た目で言えば私は許嫁の方が綺麗で好きなんだけど。真昼の趣味はこっちなのね」

それだけ言い残すと踵を返して教室から出ていく。

「貴方がふさわしいかどうかはまた改めて。ギャラリーのいない2人っきりの時にしましょ」


それ以後、しばらく彼女の姿を見ることはなかった。



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