ある日の午後。
その時はまだ晴れていたが、午後になると雨が降ると天気予報士が言っていた日。予報通り、東側の空にはうっすらと暗い雲が空を覆っているのが見えた。
そんな中、2人は学校の屋上にいた。この2人以外に人はいない。
「真昼」
「あら、●●久しぶり。入学式の時は見かけなかったけど」
「真昼ったら私のこと探してくれたのね、さすが親友」
「私が興味ある人は限られてるからね」
真昼の言葉に●●は呆れた顔をしてその名を呟いた。
「一瀬グレン」
「会えた?」
「ええ。愚者を演じる愚者だわ。なんだか腑に落ちないわね。顔は良い方だとは思うけど、顔で言えば真昼の許嫁の方が良いわ」
「確かに●●の好みの的を射たような顔をしてるわね、深夜は。付き合えば?●●ならイチコロでしょ」
●●は立っている真昼の隣に気怠そうに座りこんだ。東の雲がこちらに流れてくる。
「馬鹿言わないで。確かに好みの顔だけど、そんなことすれば貴女の許嫁、イカれた生徒会長様に殺されるわよ?」
「●●は本当に優しいのね。周りに興味のないふりをして、内心心配してる。けれどそれを誰にも悟られないように努めてる。私もなんて素敵な親友をもったんでしょう」
「親友の許嫁を取るほど飢えてないわ」
まるで真昼の言葉が聞こえていないかのように華麗にスルーした●●に真昼はほほえましくなってそっと笑みをこぼした。
そして視線を再び●●へと向ける。
「分かってるくせに。私が微塵も深夜を好きじゃないことぐらい。私の運命の相手はグレン。それ以外の誰でもない。それとも●●は自分の許嫁のこと好きなの?」
「ええ、思い出しただけで反吐が出そうなほど嫌いだわ」
「暮人はあなたの好みとは正反対だものね」
「あんなごつくていかにも男!って感じの男嫌いなのよね。優しくないし不愛想だし。私は王子様みたいな人が良いの」
「まだ言ってるの?」
「あら、女の子はいつだって自分だけの王子様を待ってるの。赤い運命の糸で結ばれた王子様を。ダメ?真昼だってそういう夢持ってるでしょ?血が、家が、家系がそれを許さなくても貴女はいまだ諦めきれず追ってる」
「・・・・・私たち、本当に似た者同士ね」
そっと吐き出された真昼のその言葉は諦めにも似た悲しみの色を帯びていた。
その声のトーンの低さにつられるように●●は視線を落とした。その視線の先には無意識にコンクリートに投げ出された自分の手があった。
「力を手に入れられれば、貴女みたいに力があれば貴女みたいに自分の大切な人を見つけて愛されると思ってた」
自分の最大限の握力で手を握った。そして力を抜き、拳をゆっくりと開く。
「けれど、どれだけ頑張って力を手に入れても満たされるものなんて一つもなかった。今も何も持ってないわ」
「●●・・・・」
影を見せる皇羽の隣に真昼は座り、そっと手のひらを重ねた。するとぴくっと●●が反応した。
「真昼は、貴女は次の力を手に入れて何を手に入れるの?」
「・・・・・もうバレてた?」
「私に隠し事しようなんて酷いわね」
「近いうちに言おうと思ってたの。まさか、暮人も気付いて?」
「あんなぼんくらが気付いてるわけないわ。真昼、私をなめすぎよ」
「そういうわけじゃないわ。●●のことは信じてる」
「真昼が今何をしてるのかぐらいは分かってる。私は真昼を信じてるから」
「ありがとう。●●」
「不義の子」
生まれたときからそう呼ばれてきた。何が不義だ。生まれただけだろう。
生まれただけで私が何をした?
全部大人の都合じゃないか。私の努力のすべのないところで私の価値が決められていく。こんな目に遭うのは大人と違って自分に力がないからだと思った。だから力を欲し、手に入れた。
けれどまた違う呼び方を付けられた。
「柊家次期当主候補の許嫁」
また、まただ。私の価値が私の努力の届かないところで誰かに決められる。誰も私自身を見ようとなどしてくれなかった。本当の意味でだれも私を必要としてくれなかった。
そんな私を真昼は見つけて、私自身を見て必要としてくれた。世界中でたった一人、私を知る人。
だから私は真昼自身を見て、本当の意味で真昼を必要とした。
それが私たちの関係性、“親友”だった。
それだけで十分。真昼の全てを信じる理由なんて。