もしかしたら、という淡い期待の元に足は保健室に向かっていた。そう、淡い期待の元。
ドアに手をかけ、開けようとした時、向こう側から不意にドアが開けられた。そこにいたのは見覚えのない男子生徒だった。何か焦っているようで口をパクパクとさせながら走り去ってしまった。その様子を不思議は思ったけど、別に気にかけることでもないと保健室の中に入った。
向かうは一番奥にある窓際のベット。
案の定、そこだけカーテンが閉められていた。それはまるで外の世界からの接触を拒絶しているかのように見えた。
「やっぱりね」なんて軽口を言おうと思ったけど、それは外に出る前に体の奥へと引っ込んだ。
「・・・・」
「・・・・忘れ物?・・・・って、どうして貴方がここにいるの」
上半身を起こして眠たそうに眼をこする●●の服は乱れていた。シャツのボタンはどれ一つ止められていなくて下着が見えている。腰から下は布団の中にあるが、足元にスカートが無造作に置かれていた。不意に先ほどの男子生徒が頭の中に思い浮かんだ。
きっと、そういうことだったんだろう。
「何か用?」
何を思ったのか●●は僕を見てふっと笑った。それは馬鹿にしているようにも、自嘲しているようにも見えた。
「その様子だと彼と私がここで何をしてたか見当が付いたってとこかしら。汚いって、哀れだって、可哀想だって思った?」
畳みかけるように言われて何も返せなかった。とはいえ、語尾を上げて言ったが●●も答えを求めてそう言ったわけじゃないらしい。
「ま、あなたに何を思われようがどうでも良いけど」
そう言うと●●はシャツのボタンを閉め、スカートを拾い上げて僕の目も気にせずに着替えだした。
それはまるでお前の存在など知らない、どうでもいいと言われているようだった。そう思った時にはもう遅かった。体は勝手に動いていた。
「・・・・●●」
●●を押し倒し、じっと見つめる。
「僕はここにいる」
「知ってるわ、そんなこと」
「君の目の前にいる」
「そうね、いるわ」
●●は煩わしそうに答えた。けれど目をそらそうとはせず、まるで僕の視線にこたえるかのようにじっとこちらを見ていた。
こっちが始めたことなのに、いつの間にか●●の瞳に吸い込まれるような感覚に陥った。
「あぁ、そういえば最近、随分と一瀬グレンと仲良くしてるのね」
●●の口から誰かの名前が、しかもグレンの名前が出てきて驚いた。僕のことは一向に名前を呼ばずに「貴方」や「親友の許嫁」だの「真昼の許嫁」としか呼ばないのにグレンの名前は呼ぶのか。それは一人の個人として●●が相手を認識しているということだろう。あぁ、本当に腹立たしい。
「学校が始まってずいぶん経つけど、●●は一度しか教室に来てないよね?」
「それが何か?情報なんて案外どこからでも漏れるものよ?」
「さっきの男から?」
「答えて私に何のメリットが?そもそもこの時間が無駄だわ」
ぐいっと●●に押されてバランスを崩してしまった。その隙に●●はベットから立ち上がって、僕に次の言葉を言わせないかのように背を向けて出ていってしまった。
バタンと保健室のドアが閉められてしまった。
「で、生徒会長様がわざわざこんなところまで何の用?」
「楽しいか?」
「ええ、一瞬前までは楽しくて楽しくて仕方がなかったのに貴方のせいで台無しだわ」