ワンルームの楽園
3
「そう?特別個性を感じるところなんてあるかな・・・?」
今更私が部屋を見回す必要もないのでベットに腰かけた。ヴィルはまだ部屋を見ている。何が面白いのだろうかと思ったけれど、初めて人の部屋に行ったときは興味深い気持ちはわかるのでしばし黙っておくことにした。連絡に気づいて、少しでも片付けておけばよかったと今更ながらに後悔した。
「不衛生ではない程度に手入れされた部屋・・・この様子じゃ大学の寮専属のハウスキーパーにはベッドのあるこの部屋には立ち入らないように頼んでるんでしょうね。散らかっているとはいえ、貴女って本や資料の所在だけは覚えているから、他人に触られるとかえって迷惑ってタイプだったものね。」
鋭い観察眼と確かな記憶力に高い言語化能力。磨き上げられた外見同様に鋭く研ぎ澄まされたその内側の能力値の高さに私は幼いころからお手上げだった。鈍い私からすれば何もかも見透かせてしまいそうな彼に羨望を覚えるけれど、どうか私の心までは見透かさないでほしい。彼との関係性に現状以外の展開を望んでいるわけではない。望めば必ず天秤の前に立つことになる。
「さすが幼馴染ね、ヴィル」
ヴィルの眉がピクリとわずかに反応した。彼は一瞬目を伏せ、少しの沈黙が流れる。
「それにしたって、地味で色味のない空間ね」
「まぁね。でも見て」
ベッドから腰を上げ、椅子がある側と反対の壁際に立つクローゼットの前に立つ。派手な装飾もない年季の入ったクローゼットだ。この部屋同様、それほど大きくはない。
ヴィルは私が何を言いたいのか察してはいないようだった。そんなヴィルに何か小さな勝負ごとに勝った時のような快感が胸に躍った。年下相手になにをと自分でも思うけれど、相手がヴィルであることに免じて許してほしい。
「ほら。クローゼットの中は意外とそうじゃなかったりして」
年季の入ったクローゼットを気遣うようにそっと開ける。それでも少しきしむ音がした。
彩度の低い衣服の間に、パステルやくすみ色の衣服が花を芽吹かせるようにハンガーにかかっている。決して派手ではないけれど、心に彩を与えてくれる大切な服たちだ。
「それ・・・・色があるって、それ、全部アタシが誕生日にプレゼントに贈ったものじゃない」
「インテリアもそうだけど、色物ってファッションにしてもどういうのが自分に似合うとか、どう組み合わせればいいのか分からなくて、自分だと手を伸ばせないんだよね」
「知ってるわよ。だからアタシが毎年貴女に似合う服を贈ってるんじゃない。ほっといたら一生地味なファッションしかしなさそうだし」
「元々あんまり服持ってなかったけど、引っ越しの時にこの部屋に持ってくる服を選別してたら半分くらいがヴィルからもらった服になっちゃった」
「一目見てわかったわ」
「ま、クローゼットの中だけだけど」
「それだけじゃ足りないわね」
「ヴィルってば手厳しいなー」
クローゼットを閉めて振り返ると、一歩分の距離にヴィルが立っていた。