幸せな日々を夢見る

しとしとと降り続く雨。本日は屋外での訓練の予定だったが、悪天候と、たまには休息も必要だろうという団長の一言で、調整日という名の思いがけない休息日となった。雨は嫌いだ。気分が滅入ってしまう。それならば外で体を動かして訓練に励む方がよっぽど良い。特別したいこともなかったので、コーヒーを淹れ、休息日など関係なく仕事をしているであろう兵長の執務室へと足を運んだ。部屋をノックすると、一言「入れ。」という声が聞こえた。


「失礼します。」


案の定、兵長は眉間に皺を寄せながら、書類と向き合っていた。いつ見ても険しい顔だなと思う。私のような凡人と違って、常に難しいことを考えているのだろう。


「ナマエか。どうした?」


私に視線も向けず、そう言葉を発した。


「いえ、特に用事はありません。恐らく仕事をしているだろうと思い、紅茶をお持ちしました。」
「えらく上司思いな部下だな。」
「いつものことでしょう?」
「ハッ。よく言う。」


そんな会話をしていても、兵長は一度も書類から目を離さない。この人に、心休まる時間はあるのだろうか。人類最強と謳われ、死んでいった仲間の思いを全て背負って生きているこの人に。いつか、ただただ幸せを感じる日々を過ごして欲しい。これでは、兵長の人生はあまりに残酷過ぎる。


「兵長、来世ってあると思いますか。」
「知るか。」
「もし、来世があるとするなら、こんな死と隣り合わせじゃない人生を送りたいですね。そしたら、きっと兵長の眉間の皺も消えますよ。」
「うるせぇよ。」
「私は、普通に結婚して、家庭を築きたいです!」
「来世でもグズであろうお前に貰い手がいたらいいな。」
「酷い!!」


調査兵団にいる限り、誰かと結婚することなど有り得ないだろう。いつ死ぬかわからないのだから。だから、それくらい夢みたってバチは当たらないはずだ。



「安心しろ。もし貰い手が見つからなかったら、俺が貰ってやる。」



そんな言葉が聞こえ、思わず思考が停止した。兵長を凝視するが、相変わらず書類とにらめっこだ。自分の顔の熱が上がっていくのがわかる。


「そ、それはこっちの台詞です!兵長の潔癖症についていける女の子なんていないんですからね!だから、兵長が結婚出来そうもなかったら、私がお嫁さんになってあげます!」


私も今すごいこと言った気がするが、そう言葉を発してしまったのだから仕方ない。兵長は今日初めて顔を上げて、私を見た。


「ほぅ。言ってくれるな。」


ニヤリと笑う兵長を見て、一瞬寒気がした。


「すすすすみません!忘れてください!」
「いや、絶対忘れねぇ。お前も忘れるなよ、ナマエ。」


そう言って、兵長は何事もなかったかのように紅茶を啜った。
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