隣の席の赤司君は、スーパースターだ。(なんだか言い方が古臭いが。)一年生にして、バスケの強豪、洛山高校のキャプテン。それに加え、財閥の御曹司でイケメン。こんな完璧人間がこの世に存在しているのだと、彼に出会って初めて知った。勿論、そんな彼のことを女子が放ってなどいない。いつだって彼は女子からの猛烈なアピールを受けている。それを拒否するでもなく、上手に優しく受け流す彼は凄い。邪険には扱わず、微笑みまでサービスしてくれるのだから。女の子たちは、更に彼を好きになるだろう。私は、そんな彼が怖い。赤司君は何一つ本心を見せていない気がするのだ。全てを客観視していて、微笑んでいるけど、そこに感情は一切ないような。私は彼が苦手だ。彼の(彼を取り巻く女の子たちの)観察は興味深いが、話しかけたことなど一度もない。勿論、彼から話しかけられたことも。隣の席で羨ましいとよく言われるが、いっそ替わってあげたいくらいだ。
放課後、日直だった私は、一人教室に残って日誌を書いていた。適当に書いて、早々と帰宅したかったが、うちのクラスの担任は厳しい。真面目に書かなければ突き返されてしまうので、仕方なく、真面目に書いているのである。机に向かってペンを走らせていれば、ドア開く音が響いた。
「苗字さん、残っていたんだ。」
思いがけない人物から声をかけられて驚いた。
「日直だからね。日誌を書いていたの。赤司君こそ、どうしたの?」
「そうか、お疲れ様。忘れ物をしてしまってね。取りに来たんだ。」
そう言って、隣の机からノートを取り出した。
「赤司君でも、忘れ物とかするんだ。」
「…俺をなんだと思っているんだい?」
「完璧人間。」
そう答えると、彼はくすりと笑った。なんだかいつもの張り付けたような笑顔より、幾分か優しく見える。こんな風にも笑える人だと、初めて知った。
「苗字さん、俺のことが苦手だろう?」
「あれ、知ってたの?」
「気づかないと思った?完璧人間なのに。」
「…意外と意地悪だね。気づかせてしまうほど顔に出していたならごめんなさい。」
「いや、構わないさ。隣の席が、君みたいな俺に関心のない子で助かっているよ。」
「わ、本性はやっぱり黒かったのね。」
「はは、言ってくれるな。」
意外に普通の男子高校生じゃないか。話もせず、勝手に苦手意識を持っていたことを、少しだけ申し訳なく思った。実際の赤司君は、想像していたよりも、ずっとずっと人間らしかった。
「さて、部活に戻るかな。」
「頑張ってね。バスケ部キャプテン様。」
「ありがとう。じゃあ。」
そう言って、彼は教室のドアに手をかけ、開くのかと思いきや、ふと動きを止め、私の方に振り返った。
「…俺が本当に忘れ物なんてすると思う?」
「え?」
「また明日、苗字さん。」
扉が閉まり、静寂が再び戻ってきた。先程の言葉の意味を考えながら、日誌に目を戻す。明日から、どういう顔で彼の隣の席に座っているのだろうか、私は。頬に熱が集まるのを感じながら、日誌を書き進めた。