行く宛のない傷み
ふわふわ、温かくて、気持ちがいい。もう少しこのまま…。「…ナマエ、」
「うー、もう少し…。」
「おい、ナマエ。いい加減起きろ。」
「…はぁい。」
もう少しこのままが良いのに。そう思いながら、渋々目を開くと、リヴァイさんの顔が間近にあり、じっとこちらを見ていた。
「…え?」
「…起きたか。なら腕を離せ。」
ため息をひとつ吐いて言った彼の言葉を聞いて、自分が彼の腕にしがみついていることに気がつき、慌てて離した。
「すみません、すみません!」
「うるせぇ。朝からでけぇ声を出すな。」
とりあえず黙ってベッドを降り、正座してみる。リヴァイさんは怪訝な顔をして私を見下ろした。
「なんの真似だ?」
「いや、あの。昨日から色々とすみません…。」
どれだけ私は彼に迷惑をかけたのだろう。記憶がないことが本当に恐ろしい。…記憶といえば、今朝のキスだ。彼が一緒に寝ていたということは、夢じゃない。思い出すと、身体の熱が一気に上がった。
「どうした?」
「あの、私、昨日の記憶が欠落していまして…。」
「…だろうな。」
「…私、とんでもない失態を…?」
血の気が引くというのは、まさにこういう事だろうという程に、先ほどまで上昇していた身体の熱が引いた。そんな顔が真っ青であろう私を見て、彼はニヤリと、口の端を上げていた。
「一体何が…。」
恐る恐る聞いてみると、突然彼の手が私に向かって伸び、くしゃりと頭を撫でた。
「なんもねぇから安心しろ。」
温かい手が私に触れた。心地良い、懐かしい温もりで、思わずじわりと涙が滲む。
「あの、今朝のことは…?」
今朝のキスは一体なんだったのだろう。どういう意味であんなことを…。
「…なんの話だ?」
…覚えていない?ということは、無意識の行為だったということだ。彼には、今の私の記憶しかない。ならば、誰かと間違えてキスしたと考えるのが妥当だ。
「い、いえ。なんでもないです…。」
彼は誰と間違えてキスをしたのだろう。…忘れてはいけない。リヴァイ兵士長とリヴァイさんは、同じであって、同じではない。彼に付き合ってる女性がいてもおかしくないのだ。どうして今頃気づいたのだろう。ちくり、と胸が傷んだ。