もどかしい距離を保つ
ストーカーの一件以来、リヴァイさんとの距離が少し縮まった気がする。一晩一緒に過ごしたからだろうか(変な意味でなく)、エルヴィンさんやハンジさん達とご飯に行く時など、以前より会話が弾むようになった。他愛ないことでからかわれたり、当たり前のように家まで送ってくれたりもする。二人に、「いつからそんなに仲良くなったの?」と言われたので、恐らく気のせいではないだろう。けれどそれは、異性としてでなく、妹のような、なんとなく可愛がってもらえている雰囲気のことで。彼を見るたびにあの朝のキスを思い出してしまう。悩んだ所でどうしようもない。この間ハンジさんに、リヴァイさんに彼女はいるのかと聞いてみたが、「聞いたことないなぁ。まず、そんな話しないしね!」という微妙な返答だった。彼に直接聞けば良い話なのだが、生憎まだそんな勇気を私は持ち合わせていない。そんなもやもやとした気持ちのまま、気がつけば、秋も深まり肌寒い季節に変わろうとしていた。***
『日曜、空けておけ。』
数日前、突然リヴァイさんから電話がかかってきたかと思えば、突拍子もなく日曜の予定を聞かれ、家で課題をしますと答えたところ、最初の言葉が返ってきた。
「え、ちょっと待って…」
『わかったな?』
「…はい。」
有無を言わさないとは、まさしくこういうことだろう。その日に何があるのかも全くわからないまま、日曜日を迎えてしまったというわけだ。勿論、休日に彼と会えるのは嬉しいのだけれど。携帯が鳴り、画面に目を向けると、「降りて来い。」というなんとも淡白なメールが一通。どこまでも自分勝手な彼に苛立たないわけではないが、それでも許してしまう自分は重症だなと自嘲した。
マンションの下に降り、辺りを見回すが彼の姿はない。不思議に思っていると、前に止まっていた一台の車の窓が開いた。
「ナマエ。」
車から私を呼んだのは勿論リヴァイさんだ。車で来るというのは予想外で、反応が遅れてしまった。
「おい、早く乗れ。」
「わ、こんにちは!リヴァイさん。…お邪魔します。」
そう言って後部座席に乗ろうすると、制止の声がかかった。
「前に座れ。今日は他に誰も乗せねぇよ。」
「え、ということは、今日は二人ですか?」
「そういうことだ。」
これもまた予想外で。恐る恐る助手席に座り、シートベルトに手をかけた。車は行く先がわからないまま発進した。二人きりなんて、なんだかデートみたいじゃないか。彼がそうは思っていなくても意識してしまう。何を話せば良いのか悩みながら俯く私を見て、彼が言葉を発した。
「なに黙っていやがる。緊張してんのか?」
「そ、そんなことないです!自意識過剰ですか?」
面白そうに言う彼を見て、珍しく反撃した私は、横から伸びてくる手に頬を引っ張られた。
「い、いひゃいです。ごめんなひゃい。」
「…間抜けな面だな。」
頬の手を離してもらい、話を聞けば、同僚の一人が退職するらしく、数人で餞別の品を贈ることになったそうだ。それを買いに行く役目を彼が上司(恐らくエルヴィンさん)に頼まれ、相手が女性なので何を贈ればいいかわからず私を連れてきたらしい。
「ハンジさんでも良かったのでは…?」
「あいつのセンスに任せられると思うか?」
質問を質問で返されてしまった。あぁ、確かにと思ってしまったが、彼女に失礼なので、黙っておくことにする。行き先は最近出来た郊外の商業施設らしい。様々なブランドが入っており、"流行の最先端"とテレビで紹介されるのを見たことがある。なんだか楽しみになってきたところで、ちらりと彼を覗き見てみた。真っすぐに前を見て運転している彼は、いつも以上に凛として見えて、目が離せなくなった。
「どうした?」
「別に、なんでもないです!」
「見惚れてたんだろ。」
からかうようにそう言う彼が妙に腹立たしく、私はそっぽを向いて窓の外を見た。その通りですよ、と言ったら、彼はどんな反応をするのだろう。そんなことを思いながら、流れる街並みをぼんやり眺めていた。