時間の重みを知る

恋人同士であった頃でさえ、彼と二人きりになるといつだって緊張していた。年齢は離れているし、ずっと憧れていた存在であった相手が恋人だというのは、なんとも気恥ずかしい。同じ時間を共有出来ることは勿論幸せで、この時間が少しでも長く続けば、と願っていたが、結局最期まで慣れることのないまま、別れを迎えた。別れを迎えたというより、突然消えてしまったという表現が正しいのかもしれない。あの時こうしていたら、もっと素直に気持ちを伝えられていたら。あなたと過ごした時間が何よりも幸せだった、と。この気持ちを伝える間も無く、彼は死んでしまったのだ。


意外にも贈り物はすんなり決まった。無難かもしれないが、アロマポットとアロマオイルのギフトセットをお勧めした。お疲れ様ですという意味を込めてと提案し、実物を見て、「これにする。」の一言。それはもうあっさりとお買物は終了した。

「リヴァイさん、決断が早すぎます。」
「別に構わんだろ。本当にそれが良いと思ったからだ。」

それなら良いのだが、本音を言えばもう少し一緒に色々と見て回りたかった。周りを見渡せば家族連れやカップルが多く、羨ましく思ってしまう。傍から見れば、私たちも恋人同士に見えるだろうか。横を歩く彼を見れば、腕時計に目をやっていた。あぁ、休日がもう終わってしまう。

「…ナマエ、他に何か見たいものはあるか?」
「え?」
「あるのかと聞いているんだが。」

質問の意味がよくわからず、首を傾げる。咀嚼して考えると、てっきり帰るものだと思っていたが、もう少し一緒にいられるということだ。

「えっと、あ!最近使っていた鏡が割れてしまったので、新しいものを探したいです。」

よくよく考えれば、そんな物は一人のときに買いに行けば良い。けれど、どうしてもこの時間を終わりにしたくはなくて。どうにか繋ぎ止めていたかった。

「そうか。なら好きな店を見るといい。」
「あ、ありがとうございます!」

目に付いた雑貨屋に入り、色々と見ていたが、特別欲しいと思える物には出会えなかった。それにしても、リヴァイさんとこのお店の不似合いさに、なんだか笑ってしまう。彼が商品の陳列されている棚をじっと眺めていたので、何を見ているのか覗きこんでみた。その目線の先には、ヴィンテージミラーのようなデザインの、小さなリボンの装飾のついている、綺麗な鏡だった。

「わ、素敵ですね。その鏡。」
「そうか。ならこれでいいな。」

そう言うと彼はその鏡を持ったままレジの方向へ足を進め、止める間もなく会計を済ませようとしていた。

「え、ちょっと、リヴァイさん?」
「今日の礼だ。休日に悪かったな。」
「そんな、申し訳ないです。」
「黙って受け取れ。今日は助かった。」

そんなことを言われてしまうと、有り難く頂くしかないじゃないか。手渡された袋をじっと眺めながらじわじわと感じる嬉しさを噛みしめた。

「ありがとうございます。大切にします。」

素直にそう答えると、彼は珍しく頬を緩めた。こんな風に優しくされてしまうと、期待してしまう。そう考える私は、なんて欲深い人間なのだろう。ついこの間まで、全てを諦めたように生きていたのに。彼に出会って、それだけで良いと思っていたはずなのに、未来を望むようになってしまったのだから。


ALICE+