雪の儚さと重なる

『今日は夕方から今年初の雪が降る見込みです。』

確かに、今朝そんなことを天気予報で言っていた気がするが、家を出る頃にはすっかり忘れていた。今日の夜は、ハンジさんとエレンと食事に行く予定だ。「会社の近くに美味しいイタリアンのお店があるんだよ。」というハンジさんの一言で、待ち合わせ場所は彼女が働く会社のビルの下になった。運が良ければ、リヴァイさんにも会えるかもしれない、なんて少し浮かれて、待ち合わせの時間より少し早目に来てしまった。エレンと一緒に来れば良かったのだが、私は夕方まで講義があり、生憎彼は今日講義のない日らしく、直接待ち合わせした方が楽なようだった。吐く息は白く、ちらちらと雪も降り出した。雪にはしゃぐ年齢でもないが、やはり降り注ぐそれを見ると心が躍る。今年もそんな季節か、なんて物思いにもふけってしまう。

「傘、忘れちゃうなんて…。頭に雪が積もりそう。」

時計を見ると、約束の時間まであと30分もある。傘を買いに行く余裕はあるけれど、その間にリヴァイさんが帰ってしまったらと考えると動けなかった。寒いけれど、会えるかもしれないと思えば辛くはない。彼と約束をしているわけではないので、会えない可能性の方が高いけれど。いつも彼はここで働いているのかとビルを見上げてみる。

「おい、こんなクソ寒い中、なに突っ立ってやがる。」

ふいに聞き覚えのある声が聞こえ、そちらを見ると、会いたいと思っていた彼が顔を顰めて立っていた。

「リヴァイさん!」

そう声をかけたところで、彼の後ろに隠れていたもう一人の姿に気がつき、目を見開いた。

「リヴァイさん、お知り合いですか?」
「あぁ、エルヴィンの親戚だ。」
「可愛いですね。大学生かな?」

そうにっこりと微笑んでくれる彼女は見覚えのある人物で、思わず名前を口にしてしまった。

「ペトラさん…?」
「え、どうして私の名前を知っているの?」

少し困惑したように聞き返す彼女を見て、自分が迂闊な発言をしてしまったことにようやく気がついた。恐らく、記憶がない。それなのに名前を知っているだなんて、怪しく思うに決まっている。

「あ、エルヴィンさんからお名前だけ聞いていて、もしかしたらあなたかなと思いまして…。」

我ながら苦しい言い訳だと思う。ペトラさんはそうでもないが、リヴァイさんは私を不審そうな目で見ていた。

「ところでナマエ、お前は頭に雪を積もらせて何をしている。」
「…ハンジさんを待ってます。」
「傘は?」
「忘れました。」

そう答えると、「馬鹿かてめぇは」とため息一つ吐かれ、傘を差し出された。

「使え。」
「いや、でも。」

そう拒むと、彼は苛立った様子で携帯電話を耳にあてながら私を睨んだ。

「借りたらいいんじゃないかな?リヴァイさん、私の傘に入ってください。どうせ同じ方向なんですから。」
「あぁ、わりぃな。」

そう傘を差し出した彼女が彼のスーツの袖を引く姿と、その傘に入ろうとする彼は、どこからどう見ても恋人同士のようで、自分勝手だが見ていたくはなかった。降雪は勢いを増し、うっすらと地面も白くなりつつある。素直に借りるべきなのかもしれないが、今の私には出来そうにない。

「あの、本当に大丈夫なんで!構わず帰ってください。」

精一杯笑ったつもりだが、うまく笑えているだろうか。とにかく、早くここから立ち去って欲しかった。

「てめぇ、人の好意を…。おいハンジ、早く降りてこい。このクソ寒いなか人を待たせてんじゃねぇ…。」

今にも溢れそうな涙を必死に堪えながら俯いていると、ふいに頭上に影が出来た。振り向くと、私に傘を傾けてくれているエレンだった。

「ナマエ?なんでお前傘を差してないんだよ。」

不思議そうに問うエレンが、私の前に立つリヴァイさんとペトラさんに気が付き、大きな瞳を更に見開いていた。

「ハッ。そういうことか。なら俺の傘はいらねぇな。おい、ペトラ。帰るぞ。」

そう言葉を発すると、彼は自分の傘を開き私の横を通り過ぎて行った。「じゃあ、気をつけてね。」とペトラさんも私に声をかけてくれ、リヴァイさんを追いかけて行ったが、それに応える力が私にはなかった。


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