自然に溢れる言葉

誰にでも優しくて、気配り上手、それでいて強い信念を持ち戦う彼女をとても尊敬していた。「どんな女性になりたい?」と聞かれたら、まず間違いなくペトラさんみたいになりたいと答えるほどに、常日頃から同じ女性として憧れていたことを今でもよく覚えている。それくらい彼女は素敵な人だ。記憶はなくとも根本は変わらないのだから、今の彼女も確実に素敵な女性なのだと思う。そんな彼女がリヴァイ兵長に好意を向けていたことは知っていた。恐らく兵長も気づいていただろう。私が言うのもおかしな話だが、私のような小娘よりずっと二人はお似合いだった。彼らは恋人同士だと周りが勝手に思い込んでいたくらいに。それなのに、兵長がどうして私の手をとってくれたのかが今でもわからない。彼女より秀でたところなんて何一つないのに。



「…くしゅんっ!」

頭が痛い。身体がだるい。電子音で熱が測り終わったことが知らされ、体温計を見ると平熱よりプラス2度以上高い温度が表示されていた。あれだけ寒い中、外にいれば風邪をひいて当然だ。どうせ外になんて出たくもなかったからちょうど良い。そう思いながらもう一度布団にもぐり直したと同時に、携帯電話の着信音が鳴った。

「もしもし…」
『あ、ナマエ?昨日顔色悪かったからさ、大丈夫かなと思って。』

電話は私の体調を案じて連絡をくれたハンジさんからだった。昨日の私は、そんなに酷い顔だったのだろうか。果たしてそれは体調不良からなのか、それとも精神面から表れていたものなのかわからない。

「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしてすみません。」
『…大丈夫って声じゃないけど。』

確かに、思うように声が出ないほどに声は枯れていた。病院に行って、ちゃんとした薬を貰うべきなのかもしれないけれど、外出する体力もない。

『病院には行った?』
「いえ、そんな大したことないんで…。」
『いやいや、その声色は大したことありそうだけど!』

結局、ハンジさんが病院に連れて行ってくれることになった。有り難いが、せっかくの休日を申し訳ない。重たい身体を引きずって着替え、その行動だけでぐったりとしてしまう。こんなとき、一人暮らしは辛い。インターホンが鳴り、来客を知らせてくれたので、鞄を手にフラフラと玄関まで足を運ぶ。

「すみません、せっかくのお休みを…。」

謝罪をしながら玄関の扉を開けると、そこに立っていたのはハンジさんではなく、昨日気まずいまま別れてしまった彼だ。

「リヴァイさん…。」

彼の目はいつもより冷ややかに感じる。なんで彼が来てくれたのかわからず、困惑していると、鞄の中の携帯電話が震えて、画面に目をやるとハンジさんからのメールだった。

『お大事に\(^O^)/』

…。この顔文字がなんともいえない。謀られた。いや、彼女なりの優しさだろうけれど。携帯をじっと眺めていると、突然冷たい手が額に触れた。

「ひでぇ熱だな。さっさと行くぞ。」

そう言って、歩き出した彼を慌てて追いかけようとしたが、突然動いたからか、視界がぐにゃりと歪んだ。「あ、倒れる。」そう思い、地面とぶつかる衝撃を覚悟したが、彼の片腕が軽々と私の身体を支えた。

「ろくに歩けもしねぇのに"大したことない"とか言いやがったのか、てめぇは。」
「…すみません。」

体勢を立て直そうと力を入れた瞬間、身体がふわりと浮いた。

「もっと人を頼れ、ナマエ。」

私を咎めるような口調ではあったが、怖くはない。多分、心配してくれている。それより、この格好は、まるでお姫様抱っこだ。何をさせているんだ、私は。

「あ、歩けます!降ろしてください!」
「てめぇ、ふらつきながらよく言えるな。黙って大人しくしてろ。」

顔色一つ変えずにすたすたと歩く彼。彼の胸元が顔の近くにあり、鼓動がよく聞こえる。その音は私をひどく安心させた。

「…ごめんなさい。」
「わかればいい。…お前、軽すぎだろ。ちゃんとメシ食ってんのか。」
「…リヴァイさん、お母さんみたい。」
「あ?落とされたいのか?」
「へへ、リヴァイさん。すき、」

自分がとんでもないことを呟いたことに気がつかず、そのまま意識を手放した。リヴァイさんが何か言ったような気がしたが、途切れかけた意識では聞き取れなかった。


ALICE+