色褪せずに、今も

あれから、重たい空気のまま駅まで一緒に歩いた。彼は家まで送ってくれようとしたが、さすがに断った。家までの道のりをおはよう笑って歩ける自信はなかったから。あの時、誰かと重ねているのではないかと問われた時、私はなんと答えるべきだったのだろうか。「違います。」と言えば良かったのか。けれど、そう答えていたなら、きっと今よりもっと後悔してしまう。



「…ということがありました。」

先日の出来事をひと通り説明し終えた私は、目の前に座っているエレンを見た。大学内でばったり出会ったエレンは、私の顔を見るなり「どうしたんだよ、その顔。」と声をかけてきた。私はそんなに顔に出やすいのだろうか。

「兵長…、じゃなくて、リヴァイさんか。何を考えているんだろうな。」
「わからないけど、わかったところで、どうしようもないけどね。」

どんな顔をして会えばいいのかわからないしね、と笑ってみた。

「無理して笑うなよ。」
「…ありがとう。エレンはいつも優しいなぁ。」

本当に昔から。訓練兵の頃も、調査兵の頃も、勿論、今だって。「ほら、あの過酷な壁外調査の時だって…、」そう、思い出話をしようとすると、エレンが私の言葉を遮った。

「兵長が死んだ作戦の日、あの人…兵長に言われたんだ。"俺が死んだらナマエを頼む"って。」
「え、何を突然…。いや、そんなこと言うような人じゃないでしょう?有り得ないよ。」
「俺もそう思った。だから、なんの冗談ですかって返したんだ。」

けど、その日に本当に死んだ。俺の目の前で、と伏し目がちに言うエレンの言葉を、よく理解出来なかった。どうして突然、そんな話をするのだろうか。

「本当は、遺体の一部も残っていたんだ。その時に身に着けていた遺品だって。ナマエに渡すのだろうと思っていたけど、ハンジさんが。遺体も全て持ち帰らなかったんだ。」
「…ハンジさんは、何も残らなかったって、」

話を聞けば、あれは嘘だったと言う。生前から兵長に、死んだ時には遺体や遺品を全て置いていけ、何も持って帰るなと言われていたらしい。

「俺さ、ハンジさんに食って掛かったんだよ。ナマエのために、持って帰りましょうって。そしたらさ…ナマエのために、持って帰るなとリヴァイに頼まれたって。」
「意味が、わからないのだけど…。」
「"何かを残してしまえば、ナマエの未来の足枷になる。あいつをそんな物で縛りつけたくはない"って。」

それは逆効果ですよ、兵長。と突っ込みたくなる。けれど、彼なりの精一杯の優しさと愛情だったのだろう。

「そっか。でも、いきなりどうしてそんな話を?」
「俺、あの時のことを、後悔してるんだ。今でも。兵長は俺の気持ちに気づいていて、"頼む"と言ったんだと思う。口には出していないけど、ナマエの幸せな未来を願っていたんだ、あの人は。けど、俺は兵長の代わりにはなれないし、落ち込むお前に、何もしてやれなかった。だけど…!」

そこでエレンの言葉は途切れた。不思議に思っていると、深呼吸をひとつ吐き、改めて話し出した。

「けど、今なら、一緒に落ち込んでやることも、励ますことも出来る。前世の記憶もあるんだ。その頃の気持ちだって共有できるだろ?…ナマエの辛そうな顔なんて、もう見たくないんだよ。だから…俺がお前を支えたいんだ。」

エレンの真剣な眼差しから、目を逸らせなかった。今、言われたことの全てを頭の中で反芻させる。あぁ、エレンも私と同じで、過去の記憶に囚われていた一人だったのだ。彼の気持ちに、真摯に答えなくてはならない。そう思うのと同時に、あの頃の私は、自分が思っていた以上に、兵長に愛されていたことを知った。


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