信じる者の幸福

私は、あの二人が前世でどんな付き合い方をしていたのか詳しくは知らない。酷い世の中だったし、"二人で幸せになる"なんて夢のまた夢の話で、そんなこと望んでいなかったのではないかとさえ思う。ただ、他人から見ると、二人が一緒にいて醸し出す雰囲気というのが、あの世の中にあまりに似合わないほど穏やかで、儚くて。それでいて美しいと思った。共に肩を並べ戦う人類最強と、それを必死で支えようとする可愛い部下。私にとって、とても大切に思う二人の幸せを、願わずにはいられなかった。



さすがに今の立場で定時というわけにはいかないが、いつもに比べれば今日は格段に早い時間に仕事を終えることが出来た。今日しかない、そう思い、帰ろうとするリヴァイに慌てて声をかける。

「リヴァイ!今日は飲みに行くよ!」
「…断る。めんどくせぇ。」
「いや、リヴァイ、行こうじゃないか。」
「チッ。エルヴィン、てめぇまで。」

心底面倒臭そうにするリヴァイは、恐らく自分が問い質される運命にあることを理解しているのだろう。その通りだ。今日は絶対に逃さない。なんとか引き止めることに成功し、オフィスを出る支度をする。ふと、鞄の底に沈んでいたプライベート用の携帯が光っていることに気づいた。

「あれ、エレンから着信とメールだ。珍しい。」

エレンという言葉に若干反応したリヴァイを、私は見逃さなかった。本当に素直じゃないな、そう思うのと同時に、疑いが確信に変わってくる。なんと聞けば良いものか悩みながらメールを開けば、血の気が引く感覚がわかり、手に持っていた携帯がするりと床に落ちた。

「おい、落ちたぞ。飲む前から酔っぱらってんのか、ハンジよ。」
「ハンジ、どうした?」

呆れるリヴァイと、様子をうかがうエルヴィン。早く言葉を発したいのに、上手く声が出ない。

「…ナマエが、」

神様、どこまであなたは残酷なんだ。

「…ナマエが事故に遭ったって。…救急車で病院に運ばれたって…。」



そこからの私たちの行動は早かった。会社近くに駐めてあるエルヴィンの車で、直ぐ様病院へ向かう。その方がタクシーより早いと践んだ。どこの病院かまで記してくれたエレンに感謝し、車を走らせる。何度かけても電話は繋がらない。大したことなければ、その旨もエレンなら連絡をくれるはずだ。最初の着信からすでに一時間は経っている。嫌な予感ばかりが頭をよぎった。車内は静かで、誰も口を開かない。後部座席から、助手席に座るリヴァイを見るが、窓の外に顔を向けているため、表情は覗えない。"事故に遭った"と告げた時の彼の顔は、みるみる真っ青になり、そして誰よりも早く動き出した。そんなリヴァイに、今話すべきではないのかもしれない。けれど、彼女に、ナマエに会う前にはっきりさせるべきだと思った。

「ねぇリヴァイ、君さ、」
「よせ、ハンジ。今、問うべきではない。」

やっぱり、エルヴィンは気づいていた。彼がそう言うなら、問うべきではないのかもしれない。けれど、私は引く気になれなかった。

「…なんだ。」

リヴァイは窓の外を見たまま、そう口にする。


「本当は記憶、戻っているんでしょう?」


出来るだけ落ち着いて、声を荒げずに尋ねたつもりだが、この車内では恐ろしいほどに大きく聞こえた。それだけ静寂につつまれているということだろう。リヴァイの返答を待ちながらも、車が彼女のいる病院へ少しでも早く着くよう願った。


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