無垢な想いに気づけたなら

違和感を感じたのはいつ頃だっただろうか。リヴァイのナマエに対する態度が、他と違って柔らかく感じるようになったのは。リヴァイは目つきは悪いけれど、もともと優しいことは知っていた。だからこそ、記憶がなくてもナマエに会わせることを賛成したのだ。それにしても、どうしてかナマエには特別優しく、会って間もない頃でも、可愛がっているように思えた。もしかして、潜在的な意識の中ではナマエのことを特別視しているのではと考えるほどに。そんな二人を見ていて、私の心までも穏やかになった。今のリヴァイと前世のリヴァイを重ねまいと努めているナマエだったが、前世の二人と現世の二人を一番重ねて見ていたのは、私かもしれない。記憶が戻っていると確信したのは、風邪をひいたナマエの看病をしてくれたリヴァイの話を聞いた時だ。リヴァイは"エレン"という名前を自分から口にしたらしい。「エレンのこと、なんて話したんですか?」なんてナマエに聞かれたが、記憶が戻っているかもしれないとは、口が裂けても言えなかった。



「どうしてそう思ったんだ。」とリヴァイに問われたので、今までに感じたままを話した。リヴァイはただ黙って聞いている。

「もしかしたら、エルヴィンがエレンのことを話したのかもと思ったけど、それも違うみたいだし。もう、記憶が戻ってるのは確定かなと思ったよ。」

リヴァイも、エルヴィンも黙ったままで、ただ車の走る音だけが響いている。柄にもなく、この空間が息苦しいと思えた。

「そうか。」

ぽつりと呟くリヴァイ。これは肯定ととっていいのだろうか。一体、彼は何を考えているのだろう。

「…どうしてナマエの気持ちに応えなかったの?」
「聞いてどうする。」
「どうもしないよ。ただ、納得がいかないだけ。」

そう、納得がいかないのだ。記憶が戻っているなら、どうしてナマエの気持ちに応えてやらなかったんだ。記憶が戻ったところで、気持ちは戻らなかったとでも言うのだろうか。

「…ナマエのこと、あの頃と同じように想っていないの?」

有り得ない、そう想いつつも尋ねてみれば、すぐに答えが返ってきた。

「馬鹿が。変わらねぇよ。…むしろ、あの頃以上に想っている。」

初めて聞くナマエに対する素直な言葉を皮切りに、漸くリヴァイが自分の感情を吐露した。ナマエに初めて声をかけられた時は、全く記憶がなかったこと。バーベキューで再会し、私とエルヴィンの知り合いだったと聞いて怪しく感じたこと。それでもナマエと関わり合ううちに、彼女に惹かれだしていることに気がついたこと。ここまでは記憶がない時の話らしい。惹かれ始めてからは、だんだん頭痛がしだし、それと共に記憶が少しずつ断片的に蘇ってきたそうだ。

「俺は記憶がなくても、ナマエに惹かれた。だが、あいつは現世の俺と前世の俺、どちらに好意を寄せているのかと疑問を持つようになった。今更、記憶が戻ったと言ったところでどうなるのだろう、ともな。」

情けない話だ、と自嘲するリヴァイの肩を、思わず掴んだ。どうして、どうして素直に自分をさらけ出さなかったのだろう。ナマエは、どんなリヴァイでも必ず受け入れるのに。しかし、責められるはずもない。彼の苦悩だって理解出来る。それがわかっていてエルヴィンは黙っているのだろう。

「ハンジ、今リヴァイを問い詰めてどうなるというんだ。何も変わらないだろう。今、私たちに出来ることは、ナマエの身を案じることだけだ。」

その通りだ、確かに。けれど、どうしてもこれだけは伝えたかった。

「でもさ、リヴァイ。ナマエは君に気持ちを伝えた後に、私になんて言ったと思う?」
「…さぁな。泣いていたか?」
「"私は、二度もリヴァイさんに出会えて、恋が出来て幸せです。"って。記憶なんて関係なく、彼女は君を想っているよ。泣いてなんていなかった。私は本気で彼女を尊敬したよ。そこまでリヴァイを想えるナマエに。」


もう、いいじゃないか。十分すぎるほどにすれ違い、互いに傷ついただろう。君たちは幸せになるべきだと、心から思った。


ALICE+