優しさに溺れる

入院生活は意外にもあっという間に過ぎ去り、私は自分が住んでいたらしい家に戻った。両親には実家に戻るよう説得されたが、私の我儘で一人暮らしを続けさせてもらうことにした。両親が心配するのは当然のことだと思う。けれど、私は記憶を失くす寸前までの生活と同じ生活を送りたいと思った。その方が、何か思い出すきっかけが多くあるように感じたのだ。有難いことに、両親は私の気持ちを汲んでくれ、"無理は絶対にしないこと"を条件に、一人暮らしを許してくれた。


「それにしても、私に相談だなんて珍しいな、ナマエ。」
「突然お呼び立てしてすみません。」
「いや、全然構わないさ。」

にっこりと柔らかな雰囲気でそう返してくれるエルヴィンさんは、リヴァイさんとは正反対な雰囲気だが、何か共通するような安心感がある。

「私、どうしても知りたいんです。自分が今までどういう風に過ごしてきたのかを。」
「どうしてリヴァイやハンジに聞かなかったんだい?」
「…どうしてでしょう。なんとなく、エルヴィンさんに聞くのが一番良い気がして。」
「それは光栄だな。」

私自身、どうしてエルヴィンさんに聞いたのかはわからないのだが、何故だか彼なら正しい方向に導いてくれるように思ったのだった。

「私、リヴァイさんのことが好きだったんですよね?」
「さて、どうだってかな。」
「…リヴァイさんも、私のことをとても大切にしてくれています。それが伝わってくるんです。」

最初は自惚れだと思ったが、真っ直ぐに私に向けられる愛情はどうしたって伝わってきた。リヴァイさんといるときが一番安心できると気づいた時には、すでに私は彼に惹かれていたのだろう。出会って間もないも同然なのに、こんなことを言うのはおかしいのかもしれない。けれど、記憶が失くなる前の私もリヴァイさんが好きだったに違いないと、証拠はないが確信している。だからこそ不思議で仕方ないのだ。一体、私達はどういう関係だったのだろうかと。ハンジさんは、恋人ではないと濁すように言っていた。恋人にはなれないような理由があるのかもしれない。


「ナマエ、私は君に以前、酷なことを言ったことがあるんだ。自分の考えを押し付けた。それによって、君は自分の、リヴァイに対する気持ちを殺さざるを得なかったんだ。私が君達に遠回りをさせてしまったようなものだ。」

すまない、と私に頭を下げるエルヴィンさんに、慌てて声をかける。

「やめてください!…わからないですけど、エルヴィンさんは間違ってないと思うんです。あなたの判断は、きっと正しいです。そんな気がします。」

そう伝えれば、エルヴィンさんは困ったように笑った。しかし、本当にそう思ったのだ。彼が、不合理に意見を押し付けたりするような人には見えない。

「判断、か。ありがとう。君はいつだって私の判断を信じてついてきてくれた一人だったな。記憶があってもなくても、君は君だ、ナマエ。昔から本当に変わらない。だからこそ、リヴァイは君に惹かれるんだろう。私から言えるのは…そうだな、君たちが今を幸せに生きるためには、お互いが必要に違いないということぐらいか。君の問いかけの答えにはなっていなくて申し訳ないが。」

彼の言葉の全てを理解することは出来なかったが、それでもエルヴィンさんが真摯に話してくれていることは伝わってきた。

「いえ、ありがとうございます。唐突に質問をしてしまい、すみませんでした。」
「君は十分に頑張っていたよ、ナマエ。あとは、リヴァイを信じれば良い。」

彼の言う"信じる"というものがどういう意味なのかわからない。ただ、このままリヴァイさんの優しさに甘えたままで良いとは、どうしても思えなかった。


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