解け始める糸

"記憶があろうと無かろうと君は君だ"

話す人皆がそう言ってくれた。その言葉に安堵すると同時に、皆が言う"私"がわからない私は、どうすれば良いのだろうと思う。何も思い出せないまま、生きていくなんて周りが良いと言えども私は嫌だった。どうしても思い出したくて、何かきっかけになればと実家に行き、そこにあるアルバムを全て引っ張り出した。それらを見て唖然とした。リヴァイさんは勿論、エルヴィンさんもハンジさんもエレンだって一枚も写っていないのだ。一人で暮らしている自宅のアルバムには、ここ一年弱ほどの皆が写っている写真はあった。しかし、彼らは私のことを、昔から知っているような口ぶりで話す。実際、リヴァイさんは私のことを"昔からよく知っている"と話していた。何かがおかしい。


「それで、てめぇは何が聞きたいんだ、ナマエ。」


なんだかいつもより三割増しくらい険しい顔をしているリヴァイさんに、言いたいことが怖くて喉から出てこない。"聞きたいことがある"と自宅に来てもらったは良いものの、怖気づいて黙りこむしか出来なかった。


「呼び出しておいて、黙りこくるとはいい度胸だな。」

「ひっ、す、すみません…。」


こんな怖いリヴァイさんは初めてだった。いつだって優しい彼に慣れてしまっていたので、どう話せばいいのかわからない。


「聞きたいことがあるなら、またエルヴィンに聞けばいいじゃねぇか。」

「え、エルヴィンさん…?」

「お前が悩んでいるようだったとアイツから聞いたが。」


視線を合わせようとせず、不機嫌なオーラ全開で話すリヴァイさん。これは、もしかすると…。


「リヴァイさん、あの、妬いてくれてます?」


恐る恐る聞いてみれば、視線だけチラリとこちらに向け、盛大な舌打ちを頂いた。


「チッ。悪いか。」

「いえ、…なんだか意外で。」

「俺は面白くないがな。いい歳した大人が余裕ねぇとはな。だが、お前は俺のものではない。だからナマエ、お前の好きなようにすればいい。」


この曖昧な状況はどういうことなのだろう。もう、焦れったいのは嫌だ。全て知りたい、そう思い腹を括った。


「…私、知りたいんです。リヴァイさんと、どういう関係だったのか。」

「どうもこうもねぇよ。」

「誤魔化さないでください。」


真剣にそう言えば、リヴァイさんも諦めたのか、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。


「…そんなに、記憶は大切か。」

「はい…。記憶がないのは、不安で寂しいです。」


素直な気持ちを伝えると、彼は私を強い力で引き寄せた。突然感じる温もりに、何故か懐かしさを感じる。以前にもこうされたことがあったかのような錯覚に陥った。私も、同じように彼の背中に手をまわした。あたかもそうすることが当たり前かのように、自然な動きだった。


「…昔、恐らくお前が想像する以上に昔だ。何よりも大切な女がいた。」


漸く話し出した彼の話は、私の想像を遥かに超える話だった。


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