解き放つ窓の向こう
毎晩、夢を見るようになった。幸せな夢なんかじゃない。痛々しくて、苦しくて、悲しい夢。人が簡単に食べられていく。まるで、そこに命なんてなかったかのようにいとも容易く。怖くて仕方がないはずなのに、私もその化物に立ち向かっていく。化物の口が大きく開き、私を飲み込む瞬間に目が覚めるのだった。「…またか。」
夢だと自分に言い聞かせるように、独り言を呟いた。時計の針の音だけが響く部屋。枕元に置いている携帯の画面を見れば、午前3時だと教えてくれた。携帯を持つ手が震えていることに気がついて、情けなくて笑ってしまう。もしかして、これがリヴァイさんの言っていた前世ってやつなのだろうか。私達は兵士だったと言っていたが、そうだとすれば、私は前世でこんな化物と戦っていたのか。それなら、私の最期はきっと夢のように化物に食べられて死んだのだろう。そう考えると尚更、身体が震える。もう一度眠りたいのに、目を閉じることが出来ない。瞼の裏には鮮明に焼ついているのだ。人が食べられていく様が。自分が食べられる瞬間が。
「ひでぇ面だな。」
会って、第一声がそれだ。余程酷い顔をしているのだろう。化粧で隠したつもりだったが、残念ながら力及ばずだったようだ。リヴァイさんは眉間に皺を寄せ、私の目元を親指でなぞる。
「せっかくのお休みにこんな顔ですみません。」
あはは、と笑ってみれば、より一層顔を顰める彼。
「そういうことを言っているんじゃねぇ。…この隈、眠れていないのか。」
「変な夢ばかり見てしまって。」
「どんな夢だ。」
正直に話しても良いのだろうか。きっと心配をかけてしまう。
「あまり、覚えていなく」
「正直に話せ。」
私の言葉を遮るように、言葉を重ねられた。私の考えなど、彼にはお見通しだったようだ。諦めて、正直に話した。彼は驚くわけでもなく、表情ひとつ変えずに話を聞いていた。全て話し終えれば、私の隈の理由に納得がいったらしく、頭を撫でてくれた。
「今日は泊まっていく。」
「え、えぇ?!駄目です。夜中に必ず起こしてしまいます。せっかくのお休みくらい、ゆっくり寝てください。」
「構わねぇよ。ナマエ、お前が眠るまで側にいてやる。悪夢で目が覚めても、隣に人がいれば多少はマシだろうが。」
記憶を取り戻したいと思う反面、夢のような、悲惨な記憶を思い出すことを怖いと思っていた。けれど、彼が側にいてくれるなら、夢の続きを見れるかもしれないと思った。
その日の晩は、言った通り、眠るまでリヴァイさんは側にいてくれた。彼がいてくれるということが、私を安心させる。自分でも驚くほどに、すぐに眠りについた。
***
「イヤァァァ!死にたくない!」
「こっちだ!こっちに逃げろ!」
あちこちから叫び声が聞こえる。響く砲弾の音。焦げた臭いと、むせ返るほどの血の臭い。ここは地獄か何かだろうか。戦いたくないのに、身体が勝手に化物と戦おうと動く。怖いのに、逃げたいのに。立ち向かったが、バランスを崩し、地面に叩きつけられた。
…もう、駄目だ。
諦めて、化物に食べられる運命を受け入れようとした。その時、何かを思い出した。
"何勝手に死のうとしていやがる。てめぇの心臓は誰のもんだ。"
そうだ、私の心臓は私の物ではない。最後まで諦める権利なんて、私にはなかった。そう思い、手元にある刃を握った瞬間、目の前の化物の動きが止まり、その場に崩れ込む。驚いて目を見開けば、化物の蒸気の中に人が見える。
「…今回は、諦めてねぇようだな。」
聞き慣れている、懐かしい声。この声は…
「ナマエ、おいナマエ。一度起きろ。」
身体を揺らされ、目を開く。目に映るのは、険しい顔をして覗き込んでいるリヴァイさんで。
「ひでぇ魘されようだな。悪いが見てられなかった。」
そう言って私の身体を起こし、抱き締められた。
「リ、ヴァイさん…。」
「なんだ。」
「私、リヴァイさんを知っていました…。あなたに助けられた。多分、何度も。」
そう、最後に現れたあの人は、間違いなくリヴァイさんだ。私は彼を知っていた。それが嬉しい。うまく言葉に出来なくて、ギュッと抱き付けば、強い力で抱き締め返してくれた。
「…そうか。」
その一言だけで、それ以上何も聞かなかった