今まで生きてきて、初めて異性に惹かれた。物凄く自分本意な考え方をしている、嫌な奴だと思っていたのに、実は仲間思いなところや、弱さを隠さず認めて、それでも前を見て戦うところだとか、ギャップにやられてしまったのだろうか、ともかく、誰よりも人間らしいと思えるあいつ、ジャンを好きになってしまった。そんなジャンがミカサに一目惚れしているなんてことは周知の事実であり、それでも別に構わなかった。確かにジャンが好きだったが、恋人になりたいなんて思わなかった。隣で話を聞く、こんな自分の立ち位置に満足していた…はずだった。
「ジャン、この訓練で私と勝負して。」
スタートラインでもある木の枝に立ち、立体起動装置を使った訓練を今、まさに開始しようとしている中、隣の枝に待機しているジャンに声をかけた。
「は?何言ってんだ、お前。なんで俺がお前と勝負するんだよ。」
訓練はいたって単純なもので、立体起動を使って森の中をいかに速く移動し、ゴールするかというものだった。この訓練は初歩的なもので、訓練兵の頃から何度も繰り返し行ってきた。ちなみに、この訓練でジャンより先にゴールしたことなんて一度もない。同期の中で、立体起動装置の扱いにおいてジャンの右に出るものはいなかった。それぐらい彼は優秀だ。
「いいから、お願い。」
「勝負して、どうするんだよ。」
「ジャンが勝ったら、もう諦める。」
「は?何を…、」
そう言った瞬間、スタートの合図が響き渡り、私は思い切りガスをふかして飛び出した。
「おいっ、ナマエ!」
少し遅れてジャンもスタートしたようだったが、そう思ったのも束の間、あっさりと抜かれてしまった。それでも、諦める訳にはいかない。この勝負に勝てたら、気持ちを伝える。負けたら、諦める。こんなことでもしないと、決心がつかない自分のらしくなさに笑ってしまう。こんなじれったい自分が本当に嫌だった。
「…絶対勝つ!」
必死になってジャンの背中を追いかける。ジャンはチラリと後ろを振り向き、私を見て焦った顔をした。
「てめぇ、なにムキになってんだ!」
「うるさい!話しかけるな!集中しろー!」
そんなことを叫びながらも、初めて私はこの訓練でジャンの横に並んだ。力んでは駄目だと思いつつも、グリップにいつも以上に力が入ってしまう。そんなことを考えていれば、ジャンが少し前に出た。私も必死に前に出ようと試みる。
「だから、なんなんだよ!ナマエ!」
「だから、うるさい!いつもいつもミカサばっかり…!たまには私を意識しろぉぉぉ!!」
「…は?」
勢いで言った私のとんでもない発言に驚いてか、ジャンが体勢を崩した。その隙に、私は一気に距離を開ける。あれ、これは私の反則なような気もするが、そんなことを考えている余裕はない。そのままのスピードで、一気にゴールした。
「か、勝った…?」
後ろを見れば、少し遅れてゴールしたジャンが目に入った。上がった息もそのままに、彼はずかずかとこちらに歩み寄り、私の前に立ちはだかった。
「お前、そんな冗談言ってまで勝ちたかったのか?」
「冗談?いや、全部本気だけど?」
さらっとそう言ってジャンを見れば、たちまち顔が赤くなってくる。視線を泳がせて、意味わかんねぇ、とかぶつぶつ言っているのが面白くて仕方がない。今なら、素直に伝えられる気がする。
「だからさ、ジャンが好きってこと。」
あれだけ決心がつかなくて、躊躇っていた言葉がすんなりと出てくるのはどうしてだろう。勝利したことによる、心の余裕だろうか。意外にも、口に出してしまえばどうってことなくて。訓練中だということも忘れて告白している私と、顔を真っ赤にして動揺しているジャン。これで少しでも私を意識してくれればいいのに、と思いながら、真っ青な空を見上げた。