いつかの君のまばたきを思い出す








天気も良い土曜日の昼下がり。普段ならばアルバイトをしていたり、友人と出かけたりするのだが、今日はいつもと違う。隣には、運転中のリヴァイさんがいる。どうして、二人きりで車に乗っているのか、私にもよくわからないが、「土曜日は俺に付き合え。」と前日の朝、駅のホームで突然言われたのだった。さすがに戸惑ったが、予定も無く家でのんびり過ごそうと思っていただけなので、素直に承諾して、翌日の今に至る。


「あの、リヴァイさん。どこに向かっているんですか?」
「…さぁな。」


さっきから何度問いかけても、この調子で答えは返って来ない。誘拐されたわけでもないので不安にはならないけれど、さすがに行き先ぐらいは知りたいものだ。ちらりと彼の横顔を盗み見る。まっすぐ前を見て運転するリヴァイさんは、やはり絵になる。こんな小娘と二人きりで出かけるなんて勿体無い。彼に似合うのは、もっと大人の女性だろう。私なりに大人っぽい洋服を選んできたのだが、助手席の窓に映る自分の姿を見て、溜息を吐いた。


「俺と出かけるのはつまらないか。」
「ち、違います!男の人と出かけた経験がなくて、緊張しちゃって…。」
「それは好都合だ。」


どことなく楽しそうに答えるリヴァイさんに、ますます狼狽えてしまう。恥ずかしくなり、視線を自分の膝下に落とした。


「そういえば、今日はいつもと雰囲気が違うな。服で女は変わるんだな。」
「…変ですか?」
「いや、悪くない。」


これは、褒め言葉として受け取っても良いのだろうか。そう思うと、だんだんと頬に熱が集まる。もう一度、ちらりと彼を見れば、タイミング良く信号が赤に変わったようで、彼の目線も私に向けられていた。目と目が合うだけで、呼吸が止まるような感覚に陥る。


「…どうした。」
「なっ、なんでもないです!」


声をかけられ、慌てて視線を窓の外へ向ける。先ほどまで見えていた青空は、いつの間にか真っ白な雲に覆われていた。そういえば、昼過ぎから雪が降るかもと天気予報で言っていたのを思い出した。


「降りるぞ。」


車を一時間ほど走らせて、ようやく目的地に着いたらしい。車のドアを開ければ、肌を刺すような風に、思わず身震いしてしまう。その風と共にほんのりと感じる潮の香り。


「海…?」


車を降りて少し歩けば、視界一面に海が広がる。


「冬に来る場所でもないがな。」
「私、冬の海って初めてです!」


空からはひらひらと雪が舞い出す。海と雪。この二つの組み合わせがこんなにも世界を美しく表してくれるのだと初めて知った。


「けど、どうして海に連れて来てくれたんですか?」
「どうしても、お前と来たかったからだ。」


まっすぐな言葉に、冷え切っているはずの身体の温度が上昇したように感じる。彼の言葉に上手く答えられず、はぐらかすように違う話題をふった。


「あ、当たり前ですけど、広いですね。海って。世界の広さを目の当たりにしている気分になります。」
「阻むものは何もないからな。世界の広さを実感することも出来る。どこへだって行ける。」


白い息を吐きながら、海に目を向けたまま話すリヴァイさんを不思議に思う。今日はいつもより口数が多い気がする。


「ナマエ、以前にも伝えたが、もう一度言っておく。俺はお前を大切に思っている。お前自身を見ているつもりだ。」


突然の告白に驚いて、思わず後ずさるが腕を強く引かれ、そのまま抱き締められる。彼から伝わる手の冷たさと、耳元に触れる温かな吐息に、身体は硬直した。


「別に、返事を焦ったりはしねぇ。いくらでも待ってやる。ただ、俺にはお前が必要だと理解して欲しい。」


その言葉を聞いて、自然と涙が頬を伝う。その涙の理由に気づくのは、もう少し先のお話。






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