やさしい終末を待っている







壁外調査を明日に控えた夜、陣形の最終確認も兼ねて、エルヴィン団長の部屋を訪れる。兼ねて、というのは、陣形の確認というのは口実で、彼に会いたいだけだった。壁外調査前夜は、どうしても彼に会いたくなる。何度も壁外に出ては死に物狂いで戦い、生きて帰って来た。けれど、その度に思うのだ。"次は駄目かもしれない"と。そんな負の感情が渦巻く中、救いの手を差し出してくれるのは、いつだってエルヴィン団長だった。


彼の部屋を三度ノックすれば、「どうぞ。」と部屋の中から柔らかな声が聞こえてきた。


「失礼します。」
「君だと思ったよ、ナマエ。」


ソファーに座っている彼は私の行動を見透かしていたようで、予想が当たったな、と笑っていながら、隣に座るように私を促した。素直に隣に腰かければ、彼はより一層優しい表情で笑ってくれた。


「それで、何かご用かな?」
「あ…、団長に明日の陣形の最終確認を…。」
「…なんだ。俺に愛を囁きに来てくれたのかと思ったのだが。」
「あああ、愛って!」


眉を下げ、わざとらしく残念そうな顔をするエルヴィン団長。この人は絶対に私をからかっている。そう思い、「もう知りません!」と顔を背ければ、ぐい、と肩を引き寄せられた。


「はは、すまない。機嫌をなおしてくれ。俺の癒しは君だけなんだよ、ナマエ。」
「…仕方ないですね。許してあげます。」
「ありがとう。それで?陣形の確認というのは嘘だろう?」


そう問いかけられたが、うまく言葉に出来ない。不安、と言ったところでだからどうしたいというわけでもない。黙ったまま俯いていれば、彼が沈黙を破った。


「明日が怖いか?」


それも見透かされている。当然だろう。なんたって、調査兵団を率いる団長様だ。私なんかの考えなど、容易にわかるだろう。


「…少し。」
「怖ければ、怖いと言って良い。それを咎めたりはしないさ。」


そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる彼。本当は、怖くて怖くてたまらない。この温もりにもう二度と触れられないかもしれないのだから。


「俺が君を守る、と言いたいが、そう言ったところで君は信じないだろうな。」
「そこまでわかるんですか?」
「ナマエのことなら、誰より理解しているつもりだよ。」


当たり前のようにさらりと言ってのける団長。けれど、私も彼のことは理解しているつもりだ。私の命と調査兵団。比べるまでもなく後者を優先させる。彼はそういう人だ。それは当然だし、私もそれで良いと思っている。


「私、団長に、」
「二人の時は、名前で呼ぶんじゃなかったかい?」
「エ、エルヴィンに守ってもらうつもりはありません。あなたの心臓は私のものではないでしょう?」
「…俺の恋人は、物分かりが良すぎて困るな。」


決して物分かりが良いわけではない。良いふりをしているだけだ。彼を困らせたくないから。これ以上、彼の重荷を増やしたくはない。けれど、恐らく彼はそれもわかっているだろう。


「ナマエ、もし、巨人がこの世から消えたその時は、君に私の心臓を捧げると誓おう。」


その言葉に驚き、顔を上げると同時に唇が重なる。触れるだけの、優しい口づけだった。


「本当ですか…?」


唇が離れ、額と額が触れる距離で問いかける。


「あぁ、約束する。その時は君だけを守ると。」


そう言って、もう一度唇を重ねる。壁外調査に赴く前夜、私たちは叶わない夢を見た。






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