人混みはあまり得意ではない。得意な奴なんていないだろうが、自分は特に苦手だと意識している。勿論好んで週末のテーマパークに等いくはずもない。にもかかわらず、休日を使って自ら人混みへと足を運んだ自分には笑ってしまう。
「リヴァイ聞いた?!ナマエってば学祭でコスプレして客引きするんだって!」
ことの始まりは昨日のこの一言だった。職務中に話す内容でなければ、いつもは無視して終わるが、内容が内容で、思わず仕事の手が止まった。
「…聞いてねぇ。」
「あれ、そうなの?てっきり知ってるものだと思ったよ。」
学祭があるということは聞いていたが、特別何もしないと言っていたはずだ。どうやらあれは嘘だったらしい。
「恥ずかしかったんだろうね。コスプレするって言うのが。何着るんだろう。…ナースが良いなぁ。」
「てめぇの好みなんて知りたくもねぇな。」
「じゃあ、リヴァイは何が良いのさ?」
そう問いかけられ、完全に手を止めて考える。ナマエの顔や体型を想像し、どんなものかと考えてみる。
「…制服だろ。」
「うわ、根っからのロリコンか。」
「黙れクソ眼鏡。」
「お前たち、職務中に何の話だ?」
柄にもなくハンジの話に乗ってしまい、気づけば真横にエルヴィンが険しい顔で立っていた。
「ナマエがコスプレするなら、何がいいって話だよ!ちなみにエルヴィン、君の希望は?」
俺達を叱ろうとしていたであろうエルヴィンはその言葉を聞いて少し考えるように俯き、そして真面目な顔で答えた。
「それは…メイド服一択だろう!」
「メイド服か…悪くない選択だな。」
「君たちの趣味って…。」
そんな話を散々した挙句、3人で文化祭に足を運ぶことになったのだった。
***
「リ、リヴァイさん?!ハンジさんにエルヴィンさんまで!」
俺たちを見つけたナマエの顔は、なかなかのものだった。まずは目を見開いて驚き、次はみるみる青ざめていった。
「良い格好をしてるじゃねぇか。」
「良かったね、リヴァイ!制服!」
余計なことを口にするクソ眼鏡を一蹴し、まじまじとナマエの姿を目に映す。
「そ、そんなに見ないでください。」
「無理だな。」
前世でのナマエは兵士だった。勿論生傷は絶えず、その傷を見る度に自分の無力さを痛感した記憶がある。今のナマエの傷一つない脚や手を見ると、このまま何からも傷つけられることのないよう、今度こそ守り抜いてやりたいと思った。
「…スカートが短過ぎるだろう。」
「今どきの女子高生はこれくらい普通ですよ?」
不服そうに自分のスカートの丈を見やるナマエに、思わず溜息を吐く。周りの通りすぎていく男の目がナマエに向けられていることに気がついていないらしい。
「お、いたいた!ナマエ!」
聞き覚えのある声に振り向けば、ナマエと同じ大学に通うエレンが笑顔で近づいて来た。
「先輩が休憩だって言ってたから、良かったら一緒に…、っと、団長に兵長!ハンジ分隊長も来てたんですね!暇なんですか?」
「てめぇ、年長者に向かって良い口の聞き方だな。躾をし直す必要があるな。なあ、エレンよ。」
そう言った途端、エレンの顔が先ほどのナマエのように、みるみる青ざめていった。おそらく、いつぞやの歯が折れるほどに蹴飛ばされた記憶が蘇ったのだろう。エレンもナマエと同様、学生服を着ていて、2人並んで親しそうに話せば、どうみても同世代のカップルに見える。今まで自分とナマエの年齢の差について問題などないと思っていたが、もしも同じ年代であれば、今のこいつらのように同じ学園生活を送るのも悪くなかったなとふと思う自分に驚いた。それに加え、自分が年上であれば普通に考えて先に死ぬわけだ。俺はまたナマエを置いて死ぬことになる。
「リヴァイさんリヴァイさん、折角なので一緒にまわりましょう。あ、でも着替えさせてくださいね。」
くい、とジャケットの裾を引かれ我に返る。今考えても仕方がないと思い、とりあえずは折角の制服姿を楽しむことにした。
「ふざけるな。着替える必要などないだろうが。」
そう言ってナマエの腕を引いて歩き出した。
「もう!リヴァイさんっては、制服が好きなんですか?もしかして、根っからの年下好きとか…?」
「バカ言え。まあ、悪かったな。てめぇにとっては同年代の方が良かっただろうな。」
「どうしてですか?私は自分が年下で良かったなと思っていますよ。今度こそリヴァイさんの最後を看取ってあげるんですからね!」
さも当たり前かのようにさらりと答えるナマエに驚き、思わず立ち止まった。
「また置いていかれるとは思わないのか?」
「勿論ずっと先の話ですよ?一緒に長く人生を楽しんで、歳をとりましょう。しわくちゃになったリヴァイさんを看取るのが私の役目です!それより、今は学園祭です!あっ、クレープがある!」
そう言ってナマエは模擬店に向かって走り出した。
いつ死ぬかもわからない前世では考えられない言葉を聞き、こんなにも色づいた世界で生きることが出来る幸せを噛み締めながら、意地でも長生きをしてやろうと、心に誓った。