正しくない理性






自分が前世の記憶をもってもう一度この世に生を受けたことに感謝していた。二度と思い出したくもないような記憶の多い世界だったが、それ以上に忘れたくないと思えることもあったからだろう。運良く同じ記憶を持つ人間、エルヴィンやハンジに出会い、その世界が自身の妄想でないこともわかり、ナマエにも出会えるだろう、と心のどこかで期待していた。


「人違いです。」


その一言で甘い期待は崩れ去った。人違いであるはずがなかった。間違えるはずもない。けれど、それを嘆いたところで、どうにもならないことだった。むしろ、それはきっとナマエにとっては幸せなことだろう。あの悲惨な世界を思い、悪夢で目覚めることも、苦しもこともないだろう。自分の感情など二の次で良かった。




「最近、おかしな夢ばかり見てる気がするんです。」



珍しく仕事が早く終わり、職場の近くまでナマエを呼び寄せ、ハンジと3人で外で夕食をとっていると突然ナマエがそう呟いた。


「気がするってことは、覚えてないの?どんな夢?」

「それが、覚えていないんです。ものすごく怖かった気がするんですけど、起きると何を見ていたのかわからなくて。なんだか大きなものに追いかけられているような。」

「ねえナマエ、それって、」

「ただの夢だろう。気にするほどのことじゃねぇな。そんなに怖いなら、一緒に寝てやろうか?」


ナマエの言葉を聞いたハンジが目を輝かせて何かを言おうとする声に被せて、ナマエに声をかけた。


「だ、大丈夫です!リヴァイさんがいたら眠れるわけないでしょう!もう!私、お手洗いに行ってきます!」


からかわれたと思ったらしいナマエは、顔を赤らめて席を立った。からかったつもりはないが、このタイミングで席を立つのは好都合だった。


「ちょっとリヴァイ!なぜあそこでもっと話を聞かなかったの?!ナマエの記憶が戻るきっかけになったかもしれないのに!」

「ハッ、俺には関係ねぇ。前々から言ってるだろう。俺はナマエの記憶が戻らない方が良いと思っていると。」

「ナマエだって、リヴァイとの記憶が戻った方が良いに決まっているじゃないか!」


声を荒げて反論するハンジに、堪えきれず、手に持っていたグラスをテーブルに音を立てて叩きつけた。


「てめぇの物差しで決めつけんじゃねぇ、クソ眼鏡が。あんな化け物のことを思い出したいか?多くの仲間を目の前で失ったことも?そんなことまで思い出すくらいなら、俺のことなんて忘れていようが構わない。今のあいつが全てだ。」


声を荒げたからだろう、ウェイターや周りの客がチラチラとこちらを覗く視線を感じ、声のトーンを少し下げて、ハンジが尋ねてきた。


「でもさ、君はどうなんだよ。あれだけ悲惨な世界を覚えていても、それ以上にナマエとの記憶があって、幸せじゃないのかい?」


「それは、」


何かを答えようとしたタイミングで、ナマエが帰ってきたので口をつぐんだ。自分でも何を答えようとしたのかわからない。だが、ハンジが尋ねてきた矛盾に気がつかないほど、馬鹿にはなれなかった。




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