曇りなく、見つめる先には
それなりに歳を重ねて、人並みに恋愛(と呼べるのか疑問だが)をし、女と関係をもったこともある。地下街にいた頃など、特に酷かったものだ。ただ、己の欲求を満たすためだけの関係であり、そこに情なんてものは微塵もなかった。愛だの恋だのに現を抜かすやつの気がしれないとさえ思っていた。兵士になれば尚更、恋愛など邪魔くさいものでしかない。人類最強とかいうふざけた呼び名がついた頃には、「守って欲しい」という気持ちを露骨にする女が多く言い寄ってくるようになった。仲間の命や、部下の命、人間の命を守るのは兵士として当然の義務だ。そこに自分の恋人が含まれても何らおかしくない。しかし、俺が初めて自ら惹かれた女は、他と違った。
「私は、あなたに守られる気なんてないから。」
今現在、自分の恋人であるナマエはそう言い放った。確かにこいつは強かった。その実力は誰もが認める程だ。だからこそ、分隊長という立場を務めている。だが、男としては惚れた女くらい守ってやりたいと初めて思っていた矢先にそう言われた。結局、いつだって俺のことなど頼らず自分の身だけでなく、仲間の命までも守っている。
「ナマエ、君の意見が聞きたいんだが。ちょっと来てくれないか。」
夜も更け、夕食も済んだ頃にナマエがエルヴィンに呼ばれた。それはいつものことだ。あいつら二人は頭がきれる。壁外調査の陣形や配置などを考えるのもあいつらの仕事だ。二人が部屋を出て行くのを横目に、手元のコーヒーを口にした。
「そんな険しい顔しちゃって。」
「…してねぇ。」
面白そうに声をかけてくるハンジが腹立たしい。
「してるって。何、じゃあ無自覚なの?」
「てめぇ、少し黙れ。」
「恋愛なんて馬鹿らしいって言ってたのはどこの誰だっけ?いやー、人は変わるもんだね!」
無自覚なわけがない。そんなことは理解している。つまり、面白くないのだ。ナマエが他の野郎と一緒にいるのが。こんな感情は今まで持ったことがなく、どう対処すれば良いのかもわからない。いい年した大人が聞いて呆れる。クソ眼鏡に勘付かれるほどに、俺はナマエに心酔しているらしい。ハンジの話を聞き流しながらぼんやりとそんなことを考えていれば、結構な時間が経っていた。飽きもせずに喋り続ける奴の椅子を一蹴りし、自室へ戻った。
「あ、やっと戻ってきた。」
自室の扉を開けるとベッドに腰掛けるナマエが目に入った。
「…何か用か?」
「んー?ご機嫌取りかな。」
ヤキモチ、妬いてるんでしょ?そう言って、俺の腕を掴み、引こうとする。
「自惚れんな。妬いてねぇ。」
「はいはい。勘違いでした。」
そのまま引っ張られ、二人でベッドに倒れ込んだ。何もかも見透かされているようで、苛立つ。
「てめぇ、襲われたいのか?」
「…それも良いかもね、」
そう紡いだ口を噛み付くように塞いだ。ナマエは抵抗もせず、首に手を回しそれに応える。
「…はっ、やけに従順だな。」
「いつだってそうでしょう?」
「なら、たまには俺に守られたらどうだ?」
「それは嫌。」
可愛げのない女だ。それなのに、何故かこいつにしか惹かれない自分はどこかおかしいのだろうか。いや、本当はわかっている。ナマエだけなのだ。人類最強としてでなく、ただ純粋に俺という人間を見ているのは。
「…てめぇは俺だけを見ていればいい、ナマエ。」
「私はリヴァイしか見てないって、わかってるくせに。」
そう言って引き寄せ、更に深く口付けた。