惜しみなく愛を囁く

今まで、一度も恋をしたことがなかった。特別誰かに惹かれることもない。人を好きになるというのが、どういうことなのかすらわからなかった。それなのに、突然私の目の前に現れた彼、リヴァイさんは、そんなことお構いなしに私を好きだと言う。出会いは突然だった。駅のホームで腕を掴まれたのだ。


「…ナマエ。」


初対面である人に名前を呼ばれるのは初めてではなかった。余程自分に似ている人がいるのか、そういった人違いは多々あった。あぁ、またか。そう思い、「人違いです。」と伝えれば、彼は固まったままだが、すぐに理解したようで、「すまなかった。」と腕を離した。それからも偶然かそうじゃないのか、駅でよく会うようになった。同じ電車に乗るようで、会う度に声をかけられた。他愛もない会話ばかりだが、彼と話をするのが心地良く感じた。会って間もない人にそんなことを感じるのは初めてで。「好きだ。」と言われたのはつい最近の話だ。嬉しくなかったわけではない。けれど、最初の人違いといい、誰かと重ねられているのではと思ったら、素直には答えられなかった。


「私はリヴァイさんを好き、なのかなぁ…。」
「誰が誰を好きだって?」


考え事が口から出てしまっていたらしい。声が聞こえて振り向けば、スーツ姿のリヴァイさんが後ろに立っていた。


「リ、リヴァイさん!?おはようございます!」
「あぁ、おはよう。で、いやにでかいひとり言だな?ナマエ。」
「…忘れてください。」
「無理な相談だな。まあいい。今は聞かなかったことにしてやる。」


完全に聞こえていたようだ。意識しているのがバレてしまった。とにかく、話題を逸らそう。


「今日はやけに人が多いですね。この時間はいつも空いてるのに。」
「事故で電車が遅延しているらしい。満員電車かもな。」
「う…。」


満員電車は苦手だ。得意な人なんていないだろうけれど、人より背が低めな私は、簡単に押し潰されてしまう。一気に憂鬱な気分になれば、すぐに電車はホームに滑り込んできた。案の定、電車は超満員だった。


「ほら、ぼやっとするな。乗るぞ。」
「は、はい!」


ぎゅうぎゅうな車内に押し込まれれば、やはり簡単に押し潰される。呼吸すら十分に出来ないほどだ。立っていることすら辛い。乗って数分も経っていないが、限界だ。そう思った瞬間、ぐいっと腕が引っ張られ、背中に壁の感触がしたと思えば、急に呼吸がしやすくなった。理由は簡単。リヴァイさんが壁沿いに誘導し、私の両耳横あたりに手をついて、壁になってくれているからだ。


「チッ。嫌気が差すほどの人だな。大丈夫か、ナマエ。」


そこで言葉を発せられれば、呼吸がかかるほどの近さで。顔を上げれは目の前には少し上から私を見下ろす端正な顔。私の熱は一気に上がった。


「すっ、すみません。あの、近いですね。」
「嫌か?押し潰されるよりマシだと思うが。」
「嫌じゃありません…。」
「そうか。」


そう言って、少し微笑む彼は、更に距離を詰めてきた。


「リ、リヴァイさん?」
「どうした?真っ赤だぞ、ナマエ。」
「意地が悪いですよ…!」


もう!と更に顔を上げれは、額と額が付きそうなほどに近くて。心臓が破裂しそうだ。彼は真剣な表情でわたしを見つめる。


「なあ、ナマエ。お前はいつになれば俺のものになる。言っておくが、人違いじゃねぇ。俺はお前自身を見ている。」


周りには聞こえないほどの小さな声で耳元で囁かれる。いくら小さい声とはいえ、人が沢山いるというのに。勿論、私達の会話を聞いている人なんていないだろう。それでもやはり恥ずかしくて。本当は答えは出ているのだけれど、まだ伝えられそうになかった。
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