‐ユノside‐



池に落ちて何分経っただろう。

泳げない私には、助けを待つ他に助かる術が無い。できることと言えば、何も考えず、ただ息を止めていることだけ。

何かを考えれば考えるほどに、焦って酸素を必要としてしまう。

無心になって。
落ち着いて。
ユウならきっと気付いてくれる。


でも……気付いてくれなかったら?


どうしよう?



(……っ、ダメだ。考えるな)



真っ暗な闇が、私の孤独感を一層増幅させる。
ヘドロや苔のせいで、水面が殆んど見えない。僅かな光に手を伸ばしても、それ以上は何もできない。

どうしようもない無力感に、私はダメだなぁなんて考えて、また息が苦しくなった。蹴られたお腹はズキズキするし、不眠のせいで頭も痛い。

いっそ意識を手放せたなら……。
そしたら死んじゃうか。
こんな時でも眠ることができないなんて、良いんだか悪いんだか。



「小エビちゃん!」


(…………?)



何故だろう?
フロイド先輩の声が聞こえた気がする。
こんな水中でも、外の声が届くのだろうか。

ゆっくりと目を開けて見上げてみると、ほの暗い水面に大きな人影が横切っていくのが見えた。



(ああ、先輩だ……)



探しに来てくれたのだろうか。

でもこの汚い水中では、例え人魚の先輩でも見つけるのは困難のようだ。私自身、服装は真っ黒だし髪も黒い。暗闇の中で黒を探せなんて、砂漠で砂金を探せと言っているようなもの。

何か目印になるものはないか。今だから頭をフル回転させるけれど、生憎私は光るものも匂いを発生させるものも持っていない。

唯一あるものと言えば……



(……っ、これは賭けだな)



心を落ち着けて、願いを込めてその名を呼ぶ。



『……フロイド先輩』



声は大きな泡となり、水面へと昇っていく。
ここまで持ちこたえてきた、私の息。

どうか届きますようにと祈りながら、私は静かに目を瞑った。