‐フロイドside‐
放課後。
帰宅しようと荷物を纏め、ジェイドと一緒にアズールのクラスへ行くと、一枚の紙を渡された。頼んでいた手紙の筆跡の人物がやっと特定されたのだ。
「ふぅん、小エビちゃんと同じクラスの奴ねぇ」
昼間の小エビちゃんの様子に、不眠の原因はあの手紙だと踏んだオレとジェイドは、アズールに報告して筆跡鑑定を急いだ。
その結果、小エビちゃんの同級生で、小エビちゃんより少し成績の悪い男子であることがわかった。
「彼は期末テストで僕との契約はしませんでしたからね。少々特定に難航しましたが、間違いないでしょう」
「となると、ユノさんに宛てたのは成績による逆恨みといったところでしょうか」
「アズールぅ、その手紙早く破った方が良くね? 小エビちゃんに変な魔法掛かってんのソレのせいでしょ」
小エビちゃんは眠くても眠れないと言っていた。睡眠薬も効かないということは、不眠になる魔法が掛かっている可能性が高い。
昼に治癒魔法は掛けてあげたけど、そんなの子供騙しも良いとこだ。早く寝かせてあげないと、辛いなんてもんじゃない。
「わかっていますよ。しかし、これは唯一の証拠品ですからね。破る前に本人とお話しすべきでしょう」
「そうですね。女性に対してこんな酷い仕打ちをするのですから、それ相応な対処をしなければ」
「絞めんのは賛成だけどぉ、小エビちゃんが本当にヤバくなったら先に破ってよね」
今も充分ヤバい気がするけど。
なんて、雑談をしながら廊下を歩いていると、前からバタバタと走ってくる奴らがいた。
誰かと思えば、カニちゃんとサバちゃん?
「アズール先輩! ジェイド先輩! フロイド先輩! ちょうど良いとこに!」
「何ですか、騒々しい」
「ユノ! ユノを見ていませんか!?」
「は? 小エビちゃん?」
なんで小エビちゃんを探してんの?
いつも一緒にいるのに。
「そういえば、先ほど校内放送で呼び出されていませんでしたか? 魔法薬学室に」
「そうなんスけど! 今見に行ったら魔法薬学室は鍵閉まってるし、職員室でクルーウェル先生に聞いても見てないって言うし!」
「そもそも、あの呼び出し! 誰がしたのかもわからないんです! 放送室に行ったら、呼び出しのメモ書きがあったから読んだだけだって! それでユウたちと手分けして探してるんですけど、どこにも見当たらなくて!」
二人の尋常じゃない焦り方に、冷や汗が伝う。ちょっとこの展開はオレたちも予想外だ。
メモ書きとやらを貰ってきたらしいサバちゃんが見せたそれ。見覚えのあり過ぎる紙切れと筆跡に、アズールも険しい顔をしてメガネをかけ直した。
「呼び出されたのは魔法薬学室……。校舎裏の池の辺りは見ましたか? 渡り廊下を通るでしょう?」
「通りましたけど……でも誰もいなかったよな?」
「つまり、池付近にまでは見に行っていないのですね? あそこは茂みも多く、人が隠れていても気付きにくいです」
「オレ、先行く」
「あ! フロイド先輩!」
すんごい嫌な感じがする。
曲がりくねった階段と廊下を走り抜け、途中で面倒になって窓から飛び降りる。
無駄に広い学校はこういう時に不便だ。
廊下を走るなとか飛び降りるなとか聞こえたけれど、そんなの今気にしている余裕は無い。
ショートカットして辿り着いた校舎裏。見えてきた池の前では、小エビくんが靴のまま池に入ろうとするのを、アザラシちゃんが止めているところだった。
小エビくんの手には、いつも小エビちゃんが結っている青いリボンが握られ、水辺には争ったような跡がある。
「やめるんだゾ、ユウ! まだ池ん中にユノがいるって決まったわけじゃねぇだろ!」
『いる可能性だってある!』
「それならもう浮かんでて良いはずだろうが! びしょ濡れで移動してるかもしんねぇんだゾ!」
『だったら地面に濡れた跡が残るだろう! それにあいつは……っ! ユノは泳げないんだ! もし突き落とされでもしたら……!』
そのまま沈んで死ぬ。
それを聞いた瞬間。考えるより先にオレは魔法薬を飲んで池に飛び込んだ。
(どこだっ?)
池は思っていた以上に深かった。
淡水と海水が入り交じったこの感じ。どうやらこれは、深いところで海と繋がった溜め池らしい。
服を脱ぐ余裕などなかったため、水中呼吸用の魔法薬を飲んだのだが、人の身体で潜るのにも限度はある。
しかもヘドロや苔で視界が悪く、なかなか深いところまで見渡せない。
「……っ、小エビちゃん!」
呼んだところで、魔法薬も飲んでいない小エビちゃんが返答できるはずもない。
もし突き落とされていたとして、既にどれだけの時間が経っているのか。前に特技は息を五分以上止められることだとか聞いていたけれど、こんな状況でそれに賭けてももう遅いだろう。
(くそ! どこにいるんだよ!)
…………フロイド先輩
「!?」
途方に暮れていたその時。どこからか小エビちゃんの声が聞こえた気がした。
見回してみると、水面へと上昇していく大きな水泡があった。自然発生にしては不自然すぎるそれ。元を辿って目を凝らすと、そこにはずっと探していた人物が目を閉じて静かに沈んでいた。
「小エビちゃん!!」