‐ユノside‐



「単刀直入に言うわ。今度の休日の撮影で、モデルの代理をしてちょうだい」



ある日の放課後。私はヴィル先輩に呼び出され、ポムフィオーレ寮の談話室を訪れていた。

ヴィル先輩と私の接点は殆ど無い上に、同学年でポムフィオーレ寮生のエペルともクラスが違うから暫く会っていない。つまり知り合いがほぼいない。
更に今日はエースたちも部活に行ってしまったし、ユウもバイトでついてきて貰えなかった。学園で一人になることを避けるため、今日はフロイド先輩に無理を言って同行してもらっている。

隣で足を組んで座るフロイド先輩は、ヴィル先輩の発言に目に見えて嫌そうな顔をした。



「ベタちゃん先輩、なんで小エビちゃんが代理なのぉ〜?」


「アタシだって無茶言ってんのはわかってるわよ。でもユノの他に頼める相手がいないの」


『……あの、ヴィル先輩。詳しくご説明頂いても?』



睨み合いから喧嘩に発展されると困る。それに、次の休日は明日なのだけれど……。

ひとまず、私でなければならないという理由を聞かせて貰おうと話を振ると、ヴィル先輩は一呼吸置いてから話し始めた。



「まず、撮りたいものは次の映画で使う写真なの。男女カップルのアルバムから、大量の写真がバラ撒かれているカットがあってね。そのための写真素材が必要ってわけ」



写真に写る顔は殆ど見えないし、まずそうな角度のものは魔法で加工するらしい。メインで見せたい写真は当然プロの女優さんが改めて撮るという。

本来であれば、今回の写真もその女優さんが撮る予定だった。しかし、撮影現場となる賢者の島までの交通機関がマヒしており、当初予定していたスケジュールに間に合わないのだとか。



「それで監督に「賢者の島でその女優と似た背格好の女性を探して、代理として撮ろう」って無茶振りをされたのよ。あの監督、いつも直前で突拍子もないこと言うんだから……」


『大変なんですね……』


「でぇ、小エビちゃんじゃなきゃダメなのぉ?」


「賢者の島でアタシの知り合いの女優なんていないし、こんなギリギリに言って予定合わせられる芸能人なんていないわ。それに、ユノは背格好もだいたい同じなのよ。顔は後から魔法でなんとかするから、用意された衣装を着てポージングするだけ。勿論、引き受けてくれるならお礼もするわ」



どうかしらと訊ねられ、暫し考える。

モデルと言われて断ろうかと思っていたけれど、聞いた限りでは他にあては無さそうだ。ヴィル先輩もその監督さんに振り回されているのか、顔色に疲れが見える。



『……わかりました。私でお力になれるのであれば、お引き受けします』


「そう。アンタが聞き分けの良い子で助かるわ」


「えぇ〜、やんのぉ?」


『すみません、フロイド先輩……』



休日はいつもフロイド先輩と過ごしている。特に予定として組んでいるわけではなく、お互いに会いたいと思った時に寮を行き来しているだけなのだが、明日はそれができなくなってしまった。

不機嫌になってしまったフロイド先輩には今度お詫びをするからと言って宥め、ヴィル先輩から詳しい日時を聞いてその場はお開きになった。

帰り際のフロイド先輩は、ずっとヴィル先輩の文句を言っていた。