‐ユノside‐



あれから丸一日が経過した。
学校では相変わらず数人から視線を送られるけれど、昨日のフロイド先輩の睨みが効いたのか直接何かをされることは無くなった。
あとは時間が経てば完全に話題の対象外にされるだろう。

それは良いのだが……



(どうしよ……)



昨日言われた言葉が私の頭を悩ませる。

キスとか、エッチとか。フロイド先輩と恋人になった今は、私だって全く興味が無いわけじゃない。

やっと先輩からキスされたり、互いの部屋に通うようになったのだ。私からもキスくらい……



(何が“キスくらい”だ……っ。 恥ずかしすぎて無理……、心臓爆発する……)



でも、いつも私に気を遣ってばかりで、フロイド先輩が疲れちゃったら……。
もしも疲れて「飽きた」とか言われたら……。



(そんなの……イヤだな……)


『ユノ〜?』


『……! なに?』



昼休み。今日は珍しくエースとデュースが部活のミーティングがあるとかで、グリムも日向ぼっこに向かってユウと二人きり。

悶々と考え事をしているのはユウにはバレバレで、目の前で肘をついて苦笑された。



『昨日言われたこと気にしてる?』


『……気にしたくない』


『だけど気になっちゃう、と』



片割れはクスクスと面白そうに笑い、食後のコーヒーを啜る。

周りに人はそんなにいないし、わざわざ魔力無しの私たちに絡んでくる人はそういない。たまに柄の悪い人は来るけれど、大抵は寮長クラスに懇意にしてもらっている私たちを恐れてか、手を出されることは無い。

だから今日はのんびりと相談できる。



『悩むくらいならフロイド先輩に話してみれば? お前と先輩のペースだってあるんだからさ』


『そう、だけど……』


『案外、先輩も同じようなことで悩んでたりするかもよ?』


『そうかな?』


『だって先輩は人魚なわけだし。いくら気分屋の先輩でも、人間のお前のことになると大切に想ってくれてるだろ?』


『…………』



そう、か。言われてみれば、確かにそうだ。
人魚と人間。隔たる分厚い壁。フロイド先輩が今までに人間の子と付き合ったことがあるのかは知らないけれど、私とこれ以上の関係を望んでくれるのならば嫌でも考えなきゃいけない時が来る。

お互いに確かめ合う良い機会なのかもしれない。



「小ぉエ〜ビちゃん」


『……! フロイド先輩』


『ほんと、いつも突然現れますね』



噂をすれば影とは先輩のことかもしれない。何度この状況に遭遇するのやら。

今日はジェイド先輩は一緒じゃないのか。



「小エビちゃん、今日の放課後ヒマ?」


『放課後? はい、何も予定無いです』


「ちょっと話したいことあるんだけどさぁ、時間もらってもいーい?」



ユウの予想は当たっていたのかもしれない。私からも相談したかったから好都合だ。

……もし別れ話だったらどうしよう?

なんて、また悩んでいても仕方がないからとりあえず返事をする。



『わかりました。良いですよ』


「やった! じゃあ放課後、教室に迎えに行くね〜」



じゃあね〜と手を振る先輩に私も小さく振り返す。

そんな私たちの様子を、ユウは微笑ましく眺めていた。










『ユノ、恋して変わったな』

『そう?』

『全体的に柔らかくなった。前なんて男子消えろって感じだったのに』

『それは昔の話でしょ……。それに、こうなるのはフロイド先輩にだけだよ』

(ほんと、変わったなぁ……)